試し読みから脊髄反射で買ってみたら大当たりでした。アンテナ低かった…8月に発売されてたなら発売後すぐ買うべきだった…
一話は無料で読めますので、取り敢えず騙されたと思って読んでみてください。一話の感じがお好きであれば、その先も大体いけるのではないかと思います。
いや、一話を読んでみて、「これ話の展開めっちゃ上手いな…」と思ったんですよ。作者の鶴淵けんじ先生は、実は今まで知らなかったんですが、スピンオフではない単体の作品としては、これが「meth・e・meth」に続いて二作目なんですかね?
まず、軽く作品紹介をさせていただきます。
飛鳥時代(おそらく)の日本。神代の空気が色濃く残っていた頃、人は未だ八百万の神々と寄り添って暮らしていました。
そんな中、舞台はとある村、ひとりの少女が神の生贄に選ばれるところから始まります。白羽の矢を立てられた少女の名は妙(みよ)。みなしごの妙は、その1年後、村の氏神である切風孫命神(きっぷうそんのみことのかみ)に捧げられる運命でした。
と、出だしは結構重ためな感じなんですが、実際の展開は予想以上に痛快です。
生贄が捧げられる神事の前日に村を訪れたのは、道士・役行者(えんのぎょうじゃ)とその供二人。これを端緒に、妙は自分でも思いもしなかった命運に巻き込まれていくことになります。
重要なことなので強調しておきますが、取り敢えずなによりかにより、主人公の妙がやたら可愛い。

妙さん。この作者さんが描く女の子全体的にとても可愛いんですが、妙は表情も豊か、根は生真面目なのにお転婆なところもあれば心配性なところも仲間思いのところもあり、大変に好感が持てるキャラクターです。

この、「都へは行きますか?」の時の妙の表情とか超可愛い。
そして、飛鳥時代の道士といえば当然のこの方、役行者こと小角(おづぬ)。

既にある程度の令名があるようなのでそれなりの年齢の筈ですが、この作品の小角様は割とお若いです。結構な男前に見えるんですが妙からの評価はあんまりよくない。というか、この作品における小角様は、勿論ヒーロー的な役割をこなすこともあるのですが、実際のところ結構抜けているところもあり、未熟なところもあれば思い悩むこともあり、一方困った人を見れば必ず手を差し伸べようとする、非常に人間臭くて熱いキャラクターです。

小角の弟子である善(ぜん)。彼も大変いい味を出しているキャラクターです。険がある目つき、荒っぽくてぶっきらぼうのように見える善ですが、その怪力やら能力やらを含めて、彼が何者であるのかの一端は第弐話で明かされます。
ちなみに、第壱話のメインキャラとしては他に「後鬼」という女性が出てくるのですが、この人の正体は壱話の作中でちゃんと明かされる上、その後の作品にもちゃんと絡んでくるので、まあまずは無料公開の壱話を読んでみてください。
「峠鬼」の展開は、基本的には「旅先での大神との接触、またその神器による騒動や怪異との顛末」をメインとして進みます。この時代、山とはすなわち「神」と同義であって、全ての山には神様がいたんですよね。
で、まず峠鬼の凄いところなんですが、このパワーバランスというか、ストーリー上の「神との接触」とそれの漫画的展開への落とし込みがとにかく絶妙。
神様のお力は物凄いので、まあ基本的には、人間は神様の前に畏まり、その力に縋るしかない訳です。それは小角にしても善にしても同じであって、畏み畏みと神様の前に参るわけですが、時にはトラブルに巻き込まれ、時には神様の力をほんの少しだけ曲げて、ほんの少しの人を救おうとする。
この、「何でもヒロイックに解決するわけでもないけれど、かといって神様に縋るばかりでもない」っていうバランス感覚が、読んでいてとても気持ちいいんですよね。
この作品の神様って皆が皆妙に人間臭くって、重々しい神様もいれば、なんかやたらフレンドリーな神様も、何考えてんだかさっぱり分からない神様もいます。取り敢えず、小角に「お前ヒゲめっちゃ似合わんな?」とか言うアンインセキ様好き。「おぬしと言えどわし激おこも辞さんけど?」が名言過ぎる。
「旅先で出会う様々な怪異」と「日本的な世界観」という話で言うと、峠鬼のお話の構造はちょっと「蟲師」に似ているかも知れませんが、妙たちが出会う神様たちは蟲以上に危険であって、一方人間くさくもあります。人間くさい神様たちと彼らの周囲の人々を観察するのが、峠鬼の一つのメインコンテンツであることは間違いないでしょう。
で、その神器が引き起こす怪異と、それがお話に絡んでくる展開の収束具合が、また毎回毎回物凄い密度でまとまっているんですね。
無料公開範囲内なんでちょっとネタバレしてしまいますが、第壱話で言うと、僅か60ページ程の間に、舞台説明あり、妙と小角たちの出会いあり、妙と後鬼との触れ合いあり、切風孫命神様の登場からはもはや疾風怒濤の展開、SF的展開まで詰め込まれて、「こんだけの要素をどうやったらこのページ数にまとめられるんだ?」と圧倒されることしきりです。すごい漫画力(まんがぢから)だとしか言いようがありません。
ストーリー展開としては結構「なんでもあり」の部類に入るとは思いますし、やや凄惨な描写もところどころにはあるんですが、
・日本的怪異
・古代世界の旅
・土着の大神
・妙が可愛い
といった要素が気になった人にはまず適合すると思いますし、8月に1・2巻が同時発売されたばかりで大変追い掛けやすいと思いますので、是非手にとってみてはいかがでしょうと思う次第なのです。
というか、この漫画もっといろんな本屋さんで扱って欲しい。近所の本屋あちこち回ったのにどこにもなくて、最終的になんとか秋葉原で手に入れるというありさまでした。面白いんだから広めたいなーと考えるばかりなのです。あと早く続きが読みたい。
あと、全然余談なんですが、弐巻の最後には本編で出てくるとある神様を扱った番外編のような漫画が掲載されていまして、

ここで出てくるクイナがやたら可愛い上に非常にいい味を出している。「大変気持ち悪くあらせられるなって」も作中トップクラスの名言だと思います。

あと、同じく番外編で出てくる、某超著名女神様のお供としていらっしゃったカシマ様とカトリ様、特にカトリ様がとても可愛くてこちらもいい味を出しておられると思います。小柄な女の子がやたらでかい剣もってる描写いいよね。なにせ神様だからリアリティを心配する必要も全くないぞ!!
というかこのお二柱、鹿島神社と香取神社の神様だとしたら、タケミカヅチ様とフツヌシノカミ様なんでしょうか。そういえば葦原中国平定で絡んでたな。
ということで、峠鬼のダイレクトマーケティングでした。よろしくお願いします。
今日書きたいことはそれくらいです。
番外編については、クイナ姉妹が一巻二巻を通してさらりと端的な台詞を担っているのも素敵。次巻が楽しみです。