2019年09月12日

「峠鬼」における善の「同じなもんか」という台詞が大変にエモいという話

前回に引き続いて、峠鬼の話をさせていただきます。若干のネタバレが混じるので、出来れば2巻まで読んでから参照いただけると。いやマジで面白いですんで。峠鬼。まだ2巻までしか出ていないのも追い掛けやすくて大変高ポイントなわけでして。



前回もさらーっと紹介したんですが、峠鬼には「メインキャラ」と言ってよさそうな、主役格のキャラが三人います。

一人が妙(みよ)。大神への生贄にされそうだったところ、小角(おづの)に救われて、彼の弟子として共に旅をする道を選んだ少女です。根は真面目だけど行動力もあれば優しくもあり茶目っ気もあり、あと大変かわいい(かわいい)。

一人が役行者(えんのぎょうじゃ)こと小角(おづの)。複数の資料から実在が確認されている人物でして、続日本紀とか読んでみるとすげー面白いのでお勧めなんですが、近年の日本の創作でいうとやっぱ有名なのって宇宙皇子ですかね?宇宙皇子も今となっては古いのかな、南総里見八犬伝とかにも登場するんですけど。そういやメガテンにも出てたな。

この作品における小角は、まだ随分若く見えますし一見優男風なんですが、色んな人を救おうとする熱い男です。ただたまに大失敗もする。正直真白稗酒のエピソードについてはちょっとどうかと思いました。あれどういう導入だったら酒盛りに参加することになるんだ。

で、小角のもう一人の弟子、妙にとっては兄弟子にあたるのが、「善」な訳です。

で、この善、当初は「悪ぶっている少年」という風にも見え、結構妙にもぶっきらぼうというか、敵意を持って当たってくるわけです。

そんな彼の代表的なセリフの一つが、「同じなもんか」というセリフ。

善1.png

これ、妙の「同じお弟子でしょ」という台詞に対する反応なんですね。この時の善の感情は、いかにもな「不快」。後で分かることですが、「只人」に対してもとより警戒感と敵意を持っている彼にとって、妙からの「同じ」という言葉が非常に不快だったんですよね。なので、この時点では、それが妙個人に対する敵意として表れているわけです。

一方、この善の反応に対してろくにひるまないというか、うっかりするとそれ程気にもしていない妙も凄い。既に只者ではない。

妙4.png

「目と髪の色は違うけど…」気にするのそこだけかーーい!!というところも突っ込みどころとして優秀です。

この後も、多少憎まれ口は叩きつつも、善と仲良くなろうとする努力を止めない妙がいい子過ぎる。かわいい。

ところで、ここで多少ネタバレが入ってしまうんですが、この後妙は善と共にとある騒動に巻き込まれ、その際に善の正体と、彼の望み、彼の態度の理由を知ってしまう訳です。

この時の善の台詞が、

善2.png

この、「同じなもんか」という導入と全く同じ台詞を、こういう風に描写してくるのが本当に上手いなーと思うんですよね。この時の善の気持ちはどんなものでしょう。恐らく自嘲。自棄。そして、もしかすると羨望。自分がもっていない、自分にたどり着けないものを持っている妙に対する羨望。

ただ、妙が自分を傷つける「只人」と同じではない、ということも、間違いなく善は悟っていると思うんですよね。自分に対する慰めを必死に考えてくれる妙に対する感謝、というのも、恐らくは含まれているんだろうなーと。

そして、2巻。

いやこれ、本当に実際読んでみて頂きたいんですが、2巻でもすごーく色々なことが起きる訳なんですよね。さらっと表面的なことだけ書いてしまえば、「旅から外れて都に残ることになった妙が、やっぱり着いてくることになった」というそれだけなんですが、それに対する善の台詞が

善3.png

これ!!!!!!!

この笑顔!!!!!!!

なんだこのいい顔!!!!!!!

これが、やっぱり妙の「同じお弟子なんですから」という言葉に対する反応であることが、もう素晴らしい。本当に素晴らしい。

本来、善視点からするとほんの半日程度妙と離れていただけである筈なんですけど、この笑顔を見ていると、やっぱりどこか、それ以前に降り積もっていた時間みたいなものが、善の中には残っているんじゃないかなーという気がするんですよね。長い長い間、どこかで「夢だったらいいのにな」と思っていたものが晴れて、そして妙が今、目の前にいる。だからこそ、今まで散々ぶっきらぼうな仕草をしてきた善が、全てを振り捨ててこの笑顔を妙に見せているのではないかと、私はそんな風に感じたわけなんです。

善からすると、自分と妙はやっぱり違う。色んなところが決定的に違う。けれど、違うからこそ尊い。そんなメッセージがあるんじゃないかなーと。

というか、このシーンがあまりにもエンディング過ぎて、思わず「いいエンディングだった…」と思ってしまいそうになったんですけど峠鬼続き読みたい。幸いハルタでは既に続きが載っているらしいので何よりなわけです。ハルタも買おうかしら。

ということで、「同じなもんか」という一つの台詞が、三度に渡って善というキャラクターから発せられたことが、周辺の展開もあってもうただひたすらにエモくて素晴らしい、という話でした。皆峠鬼読んで下さい。

ちなみに善は、この少し前の「世話んなったな」のところの表情もめちゃ味わい深くていい感じなので単行本持ってる方は確認してみて頂けると。

あと完全に余談なんですが、念願の都について超はしゃいでいる妙がマジかわいい。

妙3.png

この後お姫様呼ばわりされてめちゃ嬉しそうなところ、善に止められているのも仲良さそうで大変微笑ましいです。その後、「ここに住みたいか?」の問答からの善と小角二人の表情も良い。まあ、後鬼様の「あれはない」という意見も良く分かるんですが。


更にぜんっぜん関係ないんですが、前回も描いた2巻の番外編、カシマ様とカトリ様が大変お気に入りなんですが、

カシマカトリ.png

この辺のショットもお二柱超仲良さそうで大好き。カトリ様のちょっとニヤっとした表情がめちゃいい。というかカトリ様のデザインマジ好き。見るからに雷神然としたカシマ様もいいんですが。

このお二柱、神話だとちょっと張り合ったりもしてるんですが、立ち位置からすると日本神話全体でも最強に近い筈で、そんなお二柱がいいコンビになってるの大変素敵ですよね。このお二柱にさらっと指示が出せる某女神様の造形も素晴らしいので再登場して欲しいです。

ちなみに、古事記と日本書紀を読むと多分この作品もっと楽しめると思いますので、そちらもお勧めです。ちょっと敷居高いとは思いますが現代語訳も出てます。



峠鬼面白いよね!!!!!!!!というだけの記事でした。よろしくお願いします。

今日書きたいことはそれくらいです。

posted by しんざき at 07:00 | Comment(0) | 書籍・漫画関連 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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