魔王がいつまで経っても世界征服できない理由
このお題、ちょっと面白そうだなーと思った。
魔王は何故いつまで経っても目標を達成出来ないのか。つまり、何故組織としてプロジェクトを遂行出来ないのか。大抵の魔王軍団において、人員が足りないという話は聞いたことがない(悪の組織の人員確保のスムーズさは驚異的である。人件費は大丈夫なんだろうか)から、これはつまり魔王のリーダー適性、マネジネント能力に問題があるのではないか。
組織論として考えてみると、悪の軍団も所詮は一組織である。その組織をまとめる立場の魔王というものを、組織のリーダー適性という側面から分析するのはなかなか興味深い議論になりそうだ。彼らは果たして、何に欠けているが為に世界征服出来ないのか。
丁度この前、松下幸之助氏が書いたリーダー論みたいなものを読んだので、幾つか抽出してドラクエ辺りの魔王に当てはめてみよう。
・明確なビジョン、精神的な「揺れない」態度
これに関しては、およそ思いつく限り殆どの魔王が及第点であると思う。彼らは揺れない。そして、大抵の場合彼らのビジョンは明確である。
考えてもみよ、ラスボス戦手前など、部下は悉く勇者パーティにボコられ、あっちでもこっちでも計画は破綻、一企業に喩えればとっくの昔に倒産寸前、会社更生法に頼っていい段階なのである。普通の社長なら泣く。
その様な状況であっても、魔王は言うのだ。「よくここまで辿り着いたな、褒めてやろう」と。「だがここまでだ」、と。なんという揺れなさ、なんという精神的タフ度。およそゲーム業界で、最後の最後で戦う前に泣きを入れるラスボスというのは見たことがない。彼らの精神的堅牢性には感嘆する他ない。ロマサガ2の七英雄とか、あの状況で「逃がさん」とは良く言えたもんだ。普通の人ならむしろ「ごめんなさい逃がして下さい」と言うべき場面じゃないのか。クイックタイムハメは可哀想です。
ともあれ、精神的支柱としての魔王にはそれ程問題点は見られない、ということがまずは言えよう。
・人材の使い方、適材適所への人材配置
これに関しては、端的に言って「失格」な魔王が大半を占めると思う。
問題なのは、「勇者の出身地に弱いモンスターしか配置していないこと」ではない。「中間管理職の重要性を全く理解していない」ことにある。
数は力である。どんな弱兵でも用兵次第で戦には勝てる。つまり、弱いモンスターにも本来使い道はある。
しかし、弱兵をまとめるのに指揮官は必要不可欠である。弱兵オンリーで頭がいない集団など、烏合の衆にすらならない。そこから考えると、バラモス城では一山幾らでエビルマージがうろついているのに、アリアハン周辺にはいっかくうさぎやスライムしかいない、という組織的状況は、無能を通りこして犯罪的ですらある。
端的に言うと、配備しているモンスターのバランス悪すぎということに尽きる。プロジェクトリーダーを立てろ、プロジェクトリーダーを。
例えばドラクエ3の例でいえば、一匹でも二匹でもいい、サマンオサ辺りのモンスターにレーベ周辺をしきらせてみるといい。アリアハン全域が無闇やたらと平和(魔王にとって)になること請け合いである。
また、手元にバラモスブロスだのキングヒドラだの飼い殺しておく暇があったら、もうちょっと分散配置して組織構築をするべきなのではあるまいか。ボストロールややまたのおろち如きに重要な仕事を任せているというのに、より能力が高いこの二人にこの仕事、そりゃ腐ろうというものだ(結果としてバラモスゾンビ化)。この点、ゾーマやバラモスには猛省を求めたい。
・部下への適切な報酬とモチベーションの維持について
これに関しては議論の余地があると思う。
冒頭で人件費に関してちらっと触れたが、悪の組織の報酬形態は結構厳格な様である。彼らの報酬金額は、シバき倒した時にこちらに手に入る金額で大雑把には分かる。
勿論彼らにも生活があるだろうから、カツアゲ金額が直接彼らの報酬という訳ではなかろうが、サーベルタイガーとか爆弾岩とか、一体何に金を使っているのか見当もつかない様な連中まできっちり金を持っているところから推察すると、報酬制度はかなりきっちりしていることが予想される。口座振込ではないかも知れないが。
そして、職位に応じた報酬金額はひじょーに厳格な模様である。序盤の雑魚がもっている金額は、決して中盤の雑魚が持っているそれを越えることがない。これは、職位がアップすれば確実に給料が上がるというモチベーションには繋がる一方、同じ職位にいる限りちょっとやそっと頑張ったところで報酬は上がらない、ということを意味する。
職位間の流動性がどの程度のものか、ということが一つの要件になってくるだろう。スライムを銀メッキ漬けにすれば給料が上がるのかどうか、この辺は微妙な問題をはらんでいそうだ。
ということで、三点ばかりの要件を抽出して検討してみると、魔王はプロジェクトリーダーを配備していないことで重大な機会損失に見舞われているのではないか、という心の底からどうでもいい結論が導き出せた訳である。よかったですね。>私
関係ないが、ドラクエのラスボスのカリスマ性って、ゾーマ様辺りを頂点にして回を追う毎に下がってないか。なんだ8ボスのあの格好悪さは。
いや、シドーは確かにバカそうでしたけどね。
(追記 07/07/27 11:13)------------------------------------
別記事コメントで、マネジネントじゃなくてマネジメントなんじゃねえかな、ということを意味する控えめな突っ込みが私のハートに突き刺さりましたが、気にしないことにします。
2007年07月17日
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と考えると、ほとんどのモンスターは猿のような存在で、
中間管理職になれるような奴等は少ないのでは。
ほとんどのモンスターは人間の町に進攻するでもなく、
フィールドを適当にうろついているばかりだし、
ただ単に気候の遭う場所に住み着いているだけかもしれん。
そう考えると魔王軍の人材不足も深刻である。
希望が勇者しかいない人間側も同等だが。
んが、ドラゴンクエスト4はそういった疑問に正
面から向かっていった作品なのだと思います。
ドラゴンクエストは3で、ある程度の王道の頂点を極めてしまい、そういった中で出た・・・
「なぜ魔王は危険極まりない勇者を弱いうちに
殺しにいかないのか?」
「モンスターを倒すことに正当性はあるのか?」
といった疑問に答えた形になっていると思います。
ある意味どうしようもなく救いが無く、後味も
良くない作品ではありますが、ある意味で
「リアル」な作品だと感じています。
>と考えると、ほとんどのモンスターは猿のような存在で、
>中間管理職になれるような奴等は少ないのでは。
えーでもエビルマージ頭良さそうだよ?ヤツらマヒャドるし。
まあ実際の所、トロルキングを放し飼いにしておけばそれで十分な気もしないでもない。
>tohlmさん
>揚げ足取りのような言い方に聞こえたらすいませ
んが、ドラゴンクエスト4はそういった疑問に正
面から向かっていった作品なのだと思います。
このエントリ自体が揚げ足取りというかアレなので、どうぞご遠慮なく。
で、ドラクエ4に関しては、魔王的立場のデスピサロさんがちょっと特殊な立場なので、上の話のカテゴリからは若干外れるんじゃないかと思います。彼、割と繊細ですし。
以前にとある掲示板で、魔王軍視点での戦略ゲーム構想の話が盛り上がっていた事を思い出しました。
そこであった議論では、
・なぜ、魔王の拠点周辺に行くほど強い魔物がいるのか。また、なぜ魔王自ら力を振るわないのか。
→魔王は世界中の魔物に魔力を供給しており、そのためには易々と魔王城より出ることが出来ない。
また魔力は距離に比例して弱まるため、遠隔地や相対する神の加護が強い地域では強い魔物が維持できない。
・なぜ、勇者の目を早いうちにつぶせないのか
→勇者と呼ばれる存在は各地に存在し、伝説の血を引く勇者というのも1人とは限らない。また、勇者を騙る偽者もいるため、それら全てを潰すところまで手が回らない。
(実際問題として偽かもしれない勇者よりも国軍の軍事力の方が問題となる)
…と、言うような議論が展開されていたことを思い出しました。
これがゲームになったら是非やりたいなと思っていたのですが、どうやら実現はしなかったようで残念な記憶です。
あと、「勇者の出身地に弱いモンスターしか配置していない」のではなく、「弱いモンスターしか配置していないところの勇者候補だけが生き残り、勇者になった」とも言えたりするかなあ、と。
すごいね!
アクセス激増の予感にwktk...
コメントありがとうございます。
>以前にとある掲示板で、魔王軍視点での戦略ゲーム構想の話が盛り上がっていた事を思い出しました。
あれ?どこかで似た様な方向性のゲームの話を見た様な。なんだったかな、PCゲーだったかな。
往年のコンパイルとか喜んで作りそうなテーマではありますね。
>しょうたさん
>あと、「勇者の出身地に弱いモンスターしか配置していない」のではなく、「弱いモンスターしか配置していないところの勇者候補だけが生き残り、勇者になった」とも言えたりするかなあ、と。
その説明はよく議論されますよね。個人的には、弱いモンスターしか配置してない時点で戦略上の敗北の第一歩だろ、とか思わないでもないんですが、まあ真剣にツッコむところでもない気もしないではないですが、それ言うとこのエントリが成立しないんでやめておきます。
>すずきさん
あれ、ほんとだ。どこで拾われたんだろ。
普段他のサイト経由で海外記事しか見てなかったんで、ニュースサイト的な記事もあるって知りませんでしたよ。
と長文書いたところで、以前自分トコに同じネタを書いていたことに気が付いてどうしてくれようこの徒労感。
Webは既出で出来ているなあ。
って、謀略説は思いつかなかった。でも勢いあまって自分までやられてどうする。
ラスボスは封印されていた神様なので冒険開始時はまだ力が戻っていない。
ラスボスの加護を受けることでモンスターは実力を発揮できる。
よって、ラスボスの力が弱い序盤では、モンスターは十分な加護を受けられず力を発揮でない。
……てな理屈でした。
>ラスボスは封印されていた神様なので冒険開始時はまだ力が戻っていない。
ラスボスの加護を受けることでモンスターは実力を発揮できる。
はー、天外2ってそんな設定あったんですか。情報ありがとうございます。
みんな色々考えるもんですねえ。
ところで、別記事のコメントで気付いたんですが、正確には「マネジメント」みたいですね。今更だから直さないけど。
遂に追い詰めたぞ!もうこれまでだな魔王w
>遂に追い詰めたぞ!もうこれまでだな魔王w
いやもう、ロマサガ2とかマジそんな感じ。
今度DSでDQ4〜6が移植されるそうなので、そういう事を
よく思い返してプレイしてみようかと思いました。
6はPS2に移植されるかと思ってましたが、待望の初移植ですね。
もうストーリーほとんど覚えてないっす。
ハッサン、チャモロ、ミレーユとかがいて世界が2つだった
くらいしか覚えてないので、SFCじゃなくてもプレイできるのは
嬉しいです。
それはともかく、FF4の「魔王」の存在はアレな気がするのですが。
デスピサロさんに通じるものがあるような。
それとロマサガ1の「魔王」さんは結構部下の配置が
イイ線いってたと思いました。
中盤〜終盤で出て来る敵の4桁ダメージには泣かされました。
それでは、失礼しました。
>それはともかく、FF4の「魔王」の存在はアレな気がするのですが。
FFって、ラスボスの存在が唐突な作品が多くってちょっと「魔王」の図式にはまらない様な気がするんですよね。ゼロムスとか誰だお前って感じだったし。
ゴルベーザは色々と特殊だった様に思います。
>それとロマサガ1の「魔王」さんは結構部下の配置が
イイ線いってたと思いました。
中盤〜終盤で出て来る敵の4桁ダメージには泣かされました。
ヤツは部下に恵まれすぎだったんじゃないかと思います。
フルフルこわいよフルフル。
これは自分の勝手な考えですが、魔王の力(魔力)が色濃く出るエリア
(例えば魔王のいる土地近辺や、ダンジョン、呪われた地など)と対照的に
聖なる力(ルビス神などの力)の強い場所というのもあるような気がするのです。
祝福された土地とでもいいましょうか?生命力の強い泉や風水的な意味あいも
あるのかもしれません。
その聖なる土地近辺に生まれるべくして生まれた勇者が旅立つ時、
周りは聖なる土地です。
魔力の強すぎる魔物はキッツいので生息出来ず(居心地が悪く)
割と影響を受けづらい動物や昆虫に近い魔物や、亜人種の魔物が多いのです。
その後『聖なるエリア』から魔王のテリトリーである『邪のエリア』に近付くにつれ、
治安の悪い場所に怖い人達が多いみたいに、どんどん強い魔物が
現れるのではないでしょうか。
まあ、単なる妄想です。でもこーゆーの考えるの楽しいですよね。
失礼致しました。
魔王は神や精霊と戦っていて人間は眼中になかった。
人間の方から魔王に戦争を仕掛けて来たので、仕返しにいくつかの町を滅ぼした。
寿命が長いので人間とは時間の感覚が違う。そのため勇者の侵攻に対処できなかった。
思いついたのを適当に書いてみた。
魔王万々歳ってな感じ