昔のゲーセンって、「名前も住所も知らず、下手すると声を聞いたことすらない相手と、物理的に同じ空間で長時間同じゲームで遊んで過ごす」というのが当たり前という、不思議な空間だったなーと思うのです。
しんざきはシューター、というよりダラ外ダー(「ダライアス外伝」を偏愛していて朝から晩までダライアス外伝を遊んでいる人の意)でして、「ダライアス外伝」を偏愛していて朝から晩までダライアス外伝で遊んでいました。ダライアス外伝の息抜きには格闘ゲームやパズルゲームで遊ぶこともありましたし、奇々怪界や中華大仙といった、当時基準ですらレトロゲームとみなされていたタイトルを遊んでいたこともありました。
ダライアス外伝は超名作横スクロールSTGなのですが、ここではその話は一旦置きます。興味がある方はこちらでも読んでみてください。
レトロゲーム万里を往く その35 〜ダライアス外伝〜
1コインクリアの為のダライアス外伝講座
多くのSTGと同様、ダライアス外伝には「得点稼ぎ」という遊びがあります。敵を倒したりボスのパーツを壊したり銀勲章とったりすると得点が稼げる。それをなるべくたくさんとった人が偉い。そんなシンプルな遊びです。先日任天堂さんが「ファミコン国民投票」の企画でも「ハイスコアといえば?」って募集したりしてましたよね。
で、ゲームとwebが不可分のものになって、スコアが全国規模で可視化されるようになった現在ではちょっと理解されにくいかも知れないんですが、昔はハイスコアって店内でしか可視化されないものだったし、一期一会のものだったんですよ。
基本、大量に得点を稼いでランキングでトップをとって、クリアした後に自分のスコアネーム(ハイスコア用に入力する名前。多くのタイトルではアルファベット+記号で3文字まででした)を入力しても、そのスコアネームは閉店時に電源を落とされたら消えるものでした。ゲーメストやベーマガに日常的にハイスコアを送っているような店なら多少事情が異なりますが、大抵「その日、その時、その店で、そのゲームのハイスコア画面を見ないと確認出来ない」ものだったんです。
ただ、だからこそ、「自分のスコアが、その日別のヤツに抜かれた」っていうイベントがものすごーーく印象に残るし、滅茶苦茶な敗北感があったんですよね。「俺よりうまいヤツがこの店にいたのか……!!!」っていう、恐ろしく印象に残る敗北感。
今でもはっきり覚えているんですが、私が良く通っていた店では、私と同様ダライアス外伝をやりこんでいる人が、少なくとも3人いました。私のスコアネームは「SSI」と言うのですが、あとの二人の内一人は本名のイニシャルのようなスコアネーム、もう一人は私と同様アルファベット3文字でした。
そのアルファベット三文字のライバルを、ここでは仮に「TAI」としましょう。
ダライアス外伝がゲーセンに現れた当初、私殆ど即座にハマりこみまして、ボスのパーツを壊す稼ぎやランク上げについても割と早い段階で情報入手して(当時「パソコン通信」をやっていたことが大きいんですが、ここではいったんおいておきます)、ハイスコア争いにも早くから参戦していたんですよ。
当時のダライアスシリーズにはゾーン分岐のシステムがあって、どのゾーンを選ぶかによってスコアがだいぶ変わるんですが、当時はどのゾーンもそこそこやり込んでいました。ハイスコア画面は大抵「SSI」で上から下まで埋めつくされることがもっぱらで、少なくともそのゲーセンの中では、ダラ外で自分に勝てるヤツはそういない、と思いこんでいたんです。先述のイニシャルっぽい人に抜かれることはちょこちょこあったんですが、大抵はその日のうちに抜き返してました。
当時は私学生でしたので、学校終わってゲーセンに直行して、数時間ダラ外をプレイしてから帰って飯食って寝る、という生活が多かったんですが、ある時余りにダラ外がやりた過ぎて、夜もそこそこ遅くなってからゲーセンに行っちゃったんですね。
ハイスコア画面、全部「TAI」でした。
しかも私が一番やり込んでいた、そのまんまのゾーン選択で。当時の自分からすれば圧倒的なスコア差で。
衝撃でした。いや、全国スコアを考えれば自分なんかより上はいくらでもいる、ってことは当時でもわかっていたんですが、ただ店内スコアってやっぱそれと別枠だったんですよ。「ここは俺のホーム」という意識ってやっぱりありまして、自分はこの井戸の中では最強の蛙だと思ってました。ただ、そんな中でも自分より遥かにデカい蛙がいた、ということに、その時ようやく気付いた。
マジかーーー、ってなりまして。
それから、「日中スコアを出してから夜にスコア確認しに行って、全部スコアを塗り替えられていて全然追いつけなくて絶望して、親にバレて怒られる」という生活がだいぶ長く続きました。
何度も通ううちにその「TAI」さんが何者かということも個別認識して、実は日中にもちょくちょくKOFやヴァンパイアで対戦したりもしていた人で、後々には私の腕も上がってその人以上のスコアが出せたり、ゲーメストにスコア応募したり、一方やがてその人がダラ外をやらなくなってしまって気が抜けてしまったりもしたんですが、
ただそんな生活の中でも、私その人と会話したこと一度もないんですよ。多分人生でもトップクラスに「同じ空間で過ごして」「同じゲームを遊んで」「同じタイトルで競い合った」仲なのに、名前も知らないし住所も当然知らない、声を交わしたことすらない。
恐らく、格ゲーなんかで同じ経験をしている人はたくさんいると思うんです。むしろ、当時はそれが普通だった。「顔は知ってるけど話したことはない」相手なんていくらでもいた。
インターネットで「名前だけは知っているけれど会ったことはない」関係の人がたくさん出来てからも、あの濃密過ぎる時間とはまたちょっと違うかもな、と、あれはあの時あの場所にしか存在しない人間関係だったのかも知れないなあ、と。
先日、こんなまとめを読みまして、
わざわざ約束しないと会えない人が多すぎる。スーパーとか喫茶店とか好きな人達もっと生活の中に組み込まれてほしい
ふと、かつて「ゲーセンに行けばいつでも会えるけど、名前も声も知らなくて、今では生存確認すら出来ない」という相手を思い出して、書き残しておきたくなったと。
そんなちょっとした話でした。
今日書きたいことはそれくらいです。