先日、「映画ドラえもん のび太の絵世界物語」を、次女と二人で見てきました。
ネタバレ抜きの結論だけ言うと大変面白かったですし、次女も楽しんでいたのでとても満足しています。「劇場版ドラえもんに望まれることは何か?」ということを製作者さんがきちんと考察していて、それをもとに丁寧に作り込んでいったら出来上がった作品、という印象を受けました。昔の劇場版のテイストもきちんと踏襲しつつ現代ドラえもんになっていて、昔のファンも今のファンもどちらも楽しめるだろうなーと。
今回の舞台は「絵の中の世界」、サブキャラのクレアもマイロも非常に魅力的に描かれており、特にドラえもんでは割と珍しいのじゃ口調の少女であるクレアの存在感やかわいらしさは出色です。異世界から現代にひょっこり現れたキャラクターのお手本になるようなギャップ描写、天真爛漫な挙動の描写、端々に見せる謎めいた背景と、歴代劇場版の中でもかなり上位に入る魅力的なキャラだと言っていいでしょう。
個人的に不満が全くないわけではないのですが、厄介オタクの繰り言に近いことであり、特にドラえもんファンのお子さんが同じ部分に不満を感じることはあまりないだろうと想像できます。その為、視聴を迷っているドラえもんファンの方は、まずは御覧になっていいのではないかと考える次第です。
ここから先はネタバレを含んだ感想になりますので、未見の方には閲覧をおススメできません。視聴予定の方は、是非視聴してからご覧ください。
以下、折り畳みます。
これは私の個人的な嗜好なんですが、私が劇場版ドラえもんを観る時、あるといいなあと思っているのはこういうポイントです。
・サブキャラとの出会いとメインキャラたちの関わりの描写
・美味しそうな食事シーン
・メインキャラ、特にのび太のそれぞれの特技や技能を生かした活躍シーン
・魅力的で有能、あるいは強大な悪役
・終盤の大ピンチをひみつ道具を使って打破していく展開
・序盤〜中盤にさり気なく出てくるひみつ道具が、最後にピンチから脱出する鍵になるような展開
この辺です。
で、今回、これらの嗜好ポイント的にはかなり100点満点に近いんですよ。
クレアやマイロは魅力的だし、定番のマイロとのび太の心の交流が終盤の大逆転に繋がってもいるし、それがちゃんとお話のテーマとして通底してもいる。あの「絵に大事なのは上手さじゃなくて」というくだり、あれが最序盤からおしまいまでつながっているシナリオ、本当に素晴らしいですよね。のび太が描いたドラえもんがあそこまで重要な要素になるとは正直思いませんでした。
やや一人ひとりの活躍シーンが短い感はありますが、のび太もちゃんと「銃の名手」としての描写をされていますし、キャラクターそれぞれがそれぞれの特徴を生かした活躍をしていて、旧来ファンから見れば嬉しい限りです。序盤の「水加工用ふりかけ」での仕込みが最後にきっちり生きてくる展開もめちゃ好みで、この点満足感しかありません。クレアの「お風呂嫌い」というくだりがしっかり伏線になっていたのも良かった。
ただ一点、個人的に本当に惜しいと感じたポイントとして、悪役があんまり魅力的ではない。
今回、パルを怪しげに描写しておいて実はそれはフェイントという展開で、実際にはソドロが黒幕なわけですが、このソドロがあんまり魅力的ではないし、やってることも有能というには程遠い。動機は単に「絵を盗んで金にする」という一点で、折角アートリアブルーという設定があるのにそっちについては全く興味を示さない(というか恐らく知らない)。変装も花かっぱのガリゾウと同レベル、イゼールを解放するくだりについても別に深い考えがあったわけでも事前の仕込みがあったわけでもなく、全くコントロールが出来ず最初のやられ役になってしまう。
キャラクターの背景としても、一応「もうすぐ滅びてしまう国なんだから、美術品なんて残しておいてもしょうがない」という持論もあるにはあるんですが、のび太にあっさり論破されてしまう始末。ちょっと考えが浅すぎるんじゃないかと思わざるをえないわけです。
この辺、ソドロが有能ではないと何が問題かというと、パルの魅力まで低減しちゃうんですよね。折角「実はタイムパトロール」という設定があるというのに、「なかなか尻尾をつかめなくて」ってソドロを捕まえるまでに何年もかかっている始末、ソドロが逃げてる時ものび太やドラえもんにアクションを任せて棒立ちしている感じで、そこはもうちょっと仕事してくださいよ、と。別にソドロとセットでコメディ全振りならそれでいいんですけど、作中の挙動的にパルはコメディキャラでもないし、ソドロもコメディをつき通すキャラでもないので、そこはもうちょっとやりようがあるんじゃないかなあ?と。そんな風に感じてしまうわけです。悪役の説得力、こども向け映画でも大事だと思うんですよね。
一応大ボスはイゼールで、イゼールと悪魔たちの能力の凶悪さ、また物量兼ね備えた強大さの描写については文句がないところなんですが、とはいえイゼール、キャラクターとしてかつてのポセイドンやデマオンほど存在感あったかというとそこまででもなく、やってることは単に大暴れしていただけなんで、この点もう少し「有能な悪役」と「強大な大ボス」の組み合わせだったら、「月面探査記」や「カチコチ大冒険」あたりを越えて、歴代劇場版ドラえもんでも屈指の一作になっていたかも知れないな、と思うとちょっとだけ残念なわけです。
とはいえ前述した通り上記のような話は厄介オタクの繰り言なわけで、個人的にも「悪役の魅力」以外はかなりパーフェクトな劇場版ドラえもんだったので、ご興味おありの方は是非映画館に足を運んでいただければと思う次第なのです。ちなみに次女は、「のび太が描いたドラえもんが、今までのドラえもんのキャラの中でも一番好きかも」だそうです。
今日書きたいことはそれくらいです。