2019年09月12日

「峠鬼」における善の「同じなもんか」という台詞が大変にエモいという話

前回に引き続いて、峠鬼の話をさせていただきます。若干のネタバレが混じるので、出来れば2巻まで読んでから参照いただけると。いやマジで面白いですんで。峠鬼。まだ2巻までしか出ていないのも追い掛けやすくて大変高ポイントなわけでして。



前回もさらーっと紹介したんですが、峠鬼には「メインキャラ」と言ってよさそうな、主役格のキャラが三人います。

一人が妙(みよ)。大神への生贄にされそうだったところ、小角(おづの)に救われて、彼の弟子として共に旅をする道を選んだ少女です。根は真面目だけど行動力もあれば優しくもあり茶目っ気もあり、あと大変かわいい(かわいい)。

一人が役行者(えんのぎょうじゃ)こと小角(おづの)。複数の資料から実在が確認されている人物でして、続日本紀とか読んでみるとすげー面白いのでお勧めなんですが、近年の日本の創作でいうとやっぱ有名なのって宇宙皇子ですかね?宇宙皇子も今となっては古いのかな、南総里見八犬伝とかにも登場するんですけど。そういやメガテンにも出てたな。

この作品における小角は、まだ随分若く見えますし一見優男風なんですが、色んな人を救おうとする熱い男です。ただたまに大失敗もする。正直真白稗酒のエピソードについてはちょっとどうかと思いました。あれどういう導入だったら酒盛りに参加することになるんだ。

で、小角のもう一人の弟子、妙にとっては兄弟子にあたるのが、「善」な訳です。

で、この善、当初は「悪ぶっている少年」という風にも見え、結構妙にもぶっきらぼうというか、敵意を持って当たってくるわけです。

そんな彼の代表的なセリフの一つが、「同じなもんか」というセリフ。

善1.png

これ、妙の「同じお弟子でしょ」という台詞に対する反応なんですね。この時の善の感情は、いかにもな「不快」。後で分かることですが、「只人」に対してもとより警戒感と敵意を持っている彼にとって、妙からの「同じ」という言葉が非常に不快だったんですよね。なので、この時点では、それが妙個人に対する敵意として表れているわけです。

一方、この善の反応に対してろくにひるまないというか、うっかりするとそれ程気にもしていない妙も凄い。既に只者ではない。

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「目と髪の色は違うけど…」気にするのそこだけかーーい!!というところも突っ込みどころとして優秀です。

この後も、多少憎まれ口は叩きつつも、善と仲良くなろうとする努力を止めない妙がいい子過ぎる。かわいい。

ところで、ここで多少ネタバレが入ってしまうんですが、この後妙は善と共にとある騒動に巻き込まれ、その際に善の正体と、彼の望み、彼の態度の理由を知ってしまう訳です。

この時の善の台詞が、

善2.png

この、「同じなもんか」という導入と全く同じ台詞を、こういう風に描写してくるのが本当に上手いなーと思うんですよね。この時の善の気持ちはどんなものでしょう。恐らく自嘲。自棄。そして、もしかすると羨望。自分がもっていない、自分にたどり着けないものを持っている妙に対する羨望。

ただ、妙が自分を傷つける「只人」と同じではない、ということも、間違いなく善は悟っていると思うんですよね。自分に対する慰めを必死に考えてくれる妙に対する感謝、というのも、恐らくは含まれているんだろうなーと。

そして、2巻。

いやこれ、本当に実際読んでみて頂きたいんですが、2巻でもすごーく色々なことが起きる訳なんですよね。さらっと表面的なことだけ書いてしまえば、「旅から外れて都に残ることになった妙が、やっぱり着いてくることになった」というそれだけなんですが、それに対する善の台詞が

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これ!!!!!!!

この笑顔!!!!!!!

なんだこのいい顔!!!!!!!

これが、やっぱり妙の「同じお弟子なんですから」という言葉に対する反応であることが、もう素晴らしい。本当に素晴らしい。

本来、善視点からするとほんの半日程度妙と離れていただけである筈なんですけど、この笑顔を見ていると、やっぱりどこか、それ以前に降り積もっていた時間みたいなものが、善の中には残っているんじゃないかなーという気がするんですよね。長い長い間、どこかで「夢だったらいいのにな」と思っていたものが晴れて、そして妙が今、目の前にいる。だからこそ、今まで散々ぶっきらぼうな仕草をしてきた善が、全てを振り捨ててこの笑顔を妙に見せているのではないかと、私はそんな風に感じたわけなんです。

善からすると、自分と妙はやっぱり違う。色んなところが決定的に違う。けれど、違うからこそ尊い。そんなメッセージがあるんじゃないかなーと。

というか、このシーンがあまりにもエンディング過ぎて、思わず「いいエンディングだった…」と思ってしまいそうになったんですけど峠鬼続き読みたい。幸いハルタでは既に続きが載っているらしいので何よりなわけです。ハルタも買おうかしら。

ということで、「同じなもんか」という一つの台詞が、三度に渡って善というキャラクターから発せられたことが、周辺の展開もあってもうただひたすらにエモくて素晴らしい、という話でした。皆峠鬼読んで下さい。

ちなみに善は、この少し前の「世話んなったな」のところの表情もめちゃ味わい深くていい感じなので単行本持ってる方は確認してみて頂けると。

あと完全に余談なんですが、念願の都について超はしゃいでいる妙がマジかわいい。

妙3.png

この後お姫様呼ばわりされてめちゃ嬉しそうなところ、善に止められているのも仲良さそうで大変微笑ましいです。その後、「ここに住みたいか?」の問答からの善と小角二人の表情も良い。まあ、後鬼様の「あれはない」という意見も良く分かるんですが。


更にぜんっぜん関係ないんですが、前回も描いた2巻の番外編、カシマ様とカトリ様が大変お気に入りなんですが、

カシマカトリ.png

この辺のショットもお二柱超仲良さそうで大好き。カトリ様のちょっとニヤっとした表情がめちゃいい。というかカトリ様のデザインマジ好き。見るからに雷神然としたカシマ様もいいんですが。

このお二柱、神話だとちょっと張り合ったりもしてるんですが、立ち位置からすると日本神話全体でも最強に近い筈で、そんなお二柱がいいコンビになってるの大変素敵ですよね。このお二柱にさらっと指示が出せる某女神様の造形も素晴らしいので再登場して欲しいです。

ちなみに、古事記と日本書紀を読むと多分この作品もっと楽しめると思いますので、そちらもお勧めです。ちょっと敷居高いとは思いますが現代語訳も出てます。



峠鬼面白いよね!!!!!!!!というだけの記事でした。よろしくお願いします。

今日書きたいことはそれくらいです。

posted by しんざき at 07:00 | Comment(0) | 書籍・漫画関連 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年09月08日

「峠鬼」がめちゃ面白いので皆買うといいと思います

試し読みから脊髄反射で買ってみたら大当たりでした。アンテナ低かった…8月に発売されてたなら発売後すぐ買うべきだった…



一話は無料で読めますので、取り敢えず騙されたと思って読んでみてください。一話の感じがお好きであれば、その先も大体いけるのではないかと思います。


いや、一話を読んでみて、「これ話の展開めっちゃ上手いな…」と思ったんですよ。作者の鶴淵けんじ先生は、実は今まで知らなかったんですが、スピンオフではない単体の作品としては、これが「meth・e・meth」に続いて二作目なんですかね?

まず、軽く作品紹介をさせていただきます。

飛鳥時代(おそらく)の日本。神代の空気が色濃く残っていた頃、人は未だ八百万の神々と寄り添って暮らしていました。

そんな中、舞台はとある村、ひとりの少女が神の生贄に選ばれるところから始まります。白羽の矢を立てられた少女の名は妙(みよ)。みなしごの妙は、その1年後、村の氏神である切風孫命神(きっぷうそんのみことのかみ)に捧げられる運命でした。

と、出だしは結構重ためな感じなんですが、実際の展開は予想以上に痛快です。

生贄が捧げられる神事の前日に村を訪れたのは、道士・役行者(えんのぎょうじゃ)とその供二人。これを端緒に、妙は自分でも思いもしなかった命運に巻き込まれていくことになります。

重要なことなので強調しておきますが、取り敢えずなによりかにより、主人公の妙がやたら可愛い

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妙さん。この作者さんが描く女の子全体的にとても可愛いんですが、妙は表情も豊か、根は生真面目なのにお転婆なところもあれば心配性なところも仲間思いのところもあり、大変に好感が持てるキャラクターです。

妙2.png

この、「都へは行きますか?」の時の妙の表情とか超可愛い。

そして、飛鳥時代の道士といえば当然のこの方、役行者こと小角(おづぬ)。

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既にある程度の令名があるようなのでそれなりの年齢の筈ですが、この作品の小角様は割とお若いです。結構な男前に見えるんですが妙からの評価はあんまりよくない。というか、この作品における小角様は、勿論ヒーロー的な役割をこなすこともあるのですが、実際のところ結構抜けているところもあり、未熟なところもあれば思い悩むこともあり、一方困った人を見れば必ず手を差し伸べようとする、非常に人間臭くて熱いキャラクターです。

善.png

小角の弟子である善(ぜん)。彼も大変いい味を出しているキャラクターです。険がある目つき、荒っぽくてぶっきらぼうのように見える善ですが、その怪力やら能力やらを含めて、彼が何者であるのかの一端は第弐話で明かされます。

ちなみに、第壱話のメインキャラとしては他に「後鬼」という女性が出てくるのですが、この人の正体は壱話の作中でちゃんと明かされる上、その後の作品にもちゃんと絡んでくるので、まあまずは無料公開の壱話を読んでみてください。

「峠鬼」の展開は、基本的には「旅先での大神との接触、またその神器による騒動や怪異との顛末」をメインとして進みます。この時代、山とはすなわち「神」と同義であって、全ての山には神様がいたんですよね。

で、まず峠鬼の凄いところなんですが、このパワーバランスというか、ストーリー上の「神との接触」とそれの漫画的展開への落とし込みがとにかく絶妙

神様のお力は物凄いので、まあ基本的には、人間は神様の前に畏まり、その力に縋るしかない訳です。それは小角にしても善にしても同じであって、畏み畏みと神様の前に参るわけですが、時にはトラブルに巻き込まれ、時には神様の力をほんの少しだけ曲げて、ほんの少しの人を救おうとする。

この、「何でもヒロイックに解決するわけでもないけれど、かといって神様に縋るばかりでもない」っていうバランス感覚が、読んでいてとても気持ちいいんですよね。

この作品の神様って皆が皆妙に人間臭くって、重々しい神様もいれば、なんかやたらフレンドリーな神様も、何考えてんだかさっぱり分からない神様もいます。取り敢えず、小角に「お前ヒゲめっちゃ似合わんな?」とか言うアンインセキ様好き。「おぬしと言えどわし激おこも辞さんけど?」が名言過ぎる。

「旅先で出会う様々な怪異」と「日本的な世界観」という話で言うと、峠鬼のお話の構造はちょっと「蟲師」に似ているかも知れませんが、妙たちが出会う神様たちは蟲以上に危険であって、一方人間くさくもあります。人間くさい神様たちと彼らの周囲の人々を観察するのが、峠鬼の一つのメインコンテンツであることは間違いないでしょう。

で、その神器が引き起こす怪異と、それがお話に絡んでくる展開の収束具合が、また毎回毎回物凄い密度でまとまっているんですね。

無料公開範囲内なんでちょっとネタバレしてしまいますが、第壱話で言うと、僅か60ページ程の間に、舞台説明あり、妙と小角たちの出会いあり、妙と後鬼との触れ合いあり、切風孫命神様の登場からはもはや疾風怒濤の展開、SF的展開まで詰め込まれて、「こんだけの要素をどうやったらこのページ数にまとめられるんだ?」と圧倒されることしきりです。すごい漫画力(まんがぢから)だとしか言いようがありません。

ストーリー展開としては結構「なんでもあり」の部類に入るとは思いますし、やや凄惨な描写もところどころにはあるんですが、

・日本的怪異
・古代世界の旅
・土着の大神
・妙が可愛い

といった要素が気になった人にはまず適合すると思いますし、8月に1・2巻が同時発売されたばかりで大変追い掛けやすいと思いますので、是非手にとってみてはいかがでしょうと思う次第なのです。

というか、この漫画もっといろんな本屋さんで扱って欲しい。近所の本屋あちこち回ったのにどこにもなくて、最終的になんとか秋葉原で手に入れるというありさまでした。面白いんだから広めたいなーと考えるばかりなのです。あと早く続きが読みたい。

秋葉原で峠鬼買ってきたーー。地元の本屋どこも置いてなかった。。すげえ面白いのにもったいない

あと、全然余談なんですが、弐巻の最後には本編で出てくるとある神様を扱った番外編のような漫画が掲載されていまして、

クイナ1.png

ここで出てくるクイナがやたら可愛い上に非常にいい味を出している。「大変気持ち悪くあらせられるなって」も作中トップクラスの名言だと思います。

カトリ.png

あと、同じく番外編で出てくる、某超著名女神様のお供としていらっしゃったカシマ様とカトリ様、特にカトリ様がとても可愛くてこちらもいい味を出しておられると思います。小柄な女の子がやたらでかい剣もってる描写いいよね。なにせ神様だからリアリティを心配する必要も全くないぞ!!

というかこのお二柱、鹿島神社と香取神社の神様だとしたら、タケミカヅチ様とフツヌシノカミ様なんでしょうか。そういえば葦原中国平定で絡んでたな。


ということで、峠鬼のダイレクトマーケティングでした。よろしくお願いします。

今日書きたいことはそれくらいです。

posted by しんざき at 18:05 | Comment(2) | 書籍・漫画関連 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年05月13日

モザイク画を細部から見ていたような不思議な読後感、道満 晴明先生の「メランコリア」が面白かった

音楽仲間の@agneskeiさんにお勧めして頂いて、道満晴明先生の「メランコリア」を読みました。




最初に結論から言ってしまうととても面白かったですし、是非感想記事を書きたいなーと思ったのですが、一方で「この漫画の感想記事を書くのは、これはかなり難しいぞ」とも思ったのです。

ネタバレ厳禁という程のことではないのですが、世の中には「細かく説明してしまうと面白さが減衰してしまう可能性がある漫画」というものがありまして、恐らく「メランコリア」もそれに該当します。面白さが減衰しない程度に、凄くふわーーっと説明してしまうと「日常系のような、ファンタジーのような、不条理系のような不思議なSF漫画」ということになると思うのですが、これで「メランコリア」という漫画を理解して頂くことは著しく困難でしょう。

もう一歩だけ踏み込んで、メランコリアの構造をお伝えすると、「モザイク画をすぐ傍から見始めて、段々と視点を引いていくような漫画」と説明するのがかなり近しいと思います。読者は最初、ものすごーく細かい、短い場面場面を小さく切り取ったように見えるお話に触れていくことになります。ところが、それを読み進めていく内に段々と視点が引いていき、やがて「今まで見ていたものが、大きなモザイク画の一つ一つのピースだった」ことに気づくのです。

二冊しかないことですし、もしここまでの説明にご興味をお持ちになって、かつ表紙の感じが嫌いではない人には、この先を読まずにご一読されることをお勧めします。細かい内容には踏み込まないつもりですが、やっぱお話の構造くらいは感想として触れたいので。

ということで、以下は一応折りたたみます。


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posted by しんざき at 20:52 | Comment(0) | 書籍・漫画関連 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年03月11日

「ドラえもん のび太の月面探査記」は驚く程旧旧作大長編ドラえもんの文法に忠実な作品でした (ネタバレ感想あり)

見てきました。


いや、実は3/1から公開されていたということを完全に失念しておりまして、土曜ぽっかり予定が空いていたところ「何しようかねー」と子どもたちと相談していたら、ふと検索に引っかかったドラえもんが「もうやってるじゃん」ということに気づき、その日の内に観に行くことを決めた、という行き当たりばったり感なわけですが。

なんだか今回、脚本を辻村深月さんが担当されているということで、辻村深月さんの作品を愛読している奥様も楽しみにしていたようで。一家5人で、六本木のTOHOシネマズまで行って参りました。

結論から先に書きますと、映画は面白かったですし、大人も子どもも十分に楽しめる内容だったと思います。奥様と私の感想はというと、それぞれ

奥様「伏線が全てきっちり回収されていて満足感高い。満点」

しんざき「作品の展開全体が昔の大長編ドラえもんの文法に則っていて、昔からのドラファン向けのオマージュがこれでもかってくらい詰め込まれていてすごい」

でした。個人的には、子どもの頃に大長編ドラえもんをご覧になっていた大人、特に「大魔境」「海底奇岩城」辺りがお好きな人は、本作を見て損はしないのではないかと感じています。勿論子どもたちも大変楽しんだらしく、長女次女は翌日早速「ルナ・ルカごっこ」をやっていて、代わりばんこにルナ・ルカを担当していて楽しそうでした。


ということで、以下の記事では「本作のどの辺が「昔からの大長編ドラえもん」の文法に忠実なのか」という話をしたいのですが、話の性質上どうしても重要なネタバレを避けることが出来ませんので、本作未視聴、僅かでも視聴する可能性がある、という方には以下を読み進めることを非推奨とさせていただきます。良かったら映画館行ってから読んでください。

ということで、以下は折りたたみます。




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posted by しんざき at 07:13 | Comment(0) | 書籍・漫画関連 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年01月31日

「ワルキューレの降誕」のアイリーアさんが可愛いので皆さんにもお勧めします

そういえばつい先日、富士宏先生の「ワルキューレの降誕」「ワルキューレの栄光」がkindle化されたんですよ。みなさんもう買いました?





今更いちいち言うまでもなく、富士宏先生はナムコの超名作「ワルキューレの冒険」「ワルキューレの伝説」でキャラデザを担当された方であって、あの素晴らしすぎるワルキューレのデザインを生み出したご本人であるわけで、その富士宏先生自身の絵でワルキューレが活躍しまくるのはとてつもなく素晴らしいことである訳です。

「ワルキューレの栄光」は、FC版ワルキューレの冒険をベースに、富士宏先生の解釈で再構築された「時の鍵伝説」です。こちらはこちらで別途紹介したいのですが、今日は皆さんに、「ワルキューレの降誕」のアイリーアさんが可愛いという話を中心に、ついうっかりポチってしまう人が3人くらい出ることを目標にした記事をお届けしたいと思います。よろしくお願いします。

まず第一に、「ワルキューレの降誕」は、ファミコン版「ワルキューレの冒険」の、いわば前日譚に当たる物語です。

「冒険」において、ワルキューレは神の子として、悪の化身ゾウナを倒す為に旅立つわけなのですが、この「降誕」におけるワルキューレはまだ「見習い女神」とでもいうべき立場であって、何か特定の仕事をしているわけではありません。「若く元気な女神」「周囲はこの女神のいたずらを持て余していた」と語られるのみであって、快活でおてんばな彼女の姿が描写されます。


そんな時、天上界にある事件が起こります。槍の矛先のような形をした、謎の幻像が天上界の様々な浮島に突きつけるような形で出現したのです。

大女神は、その現象を調査するという任務を、いわば新米女神であったワルキューレに任じます。ワルキューレの初仕事というわけです。

まずは、このワルキューレの描写それ自体が、富士宏先生節全開で非常に素晴らしいことが、この「ワルキューレの降誕」の根幹であることは論を俟たないでしょう。

ワルキューレ2.png

富士宏先生が描き出すワルキューレは、「女神」という言葉ひとつで括れるような存在ではなく、快活で活発、やや猪突猛進気味でところどころ天然、しかし正義感と使命感にあふれた少女です。

彼女はちょくちょく失敗をすることもありますし、早とちりをすることもあれば大ボケをかますこともありますが、常に前向きでどんな苦境にも決して背中を見せません。

まだ女神として未熟であったこともあり、この物語におけるワルキューレは決して「完成された」キャラクターではありません。むしろ成長過程にある女神様です。

そんなワルキューレが、様々な試行錯誤や失敗を繰り返しながら、少しずつ謎の現象の根幹に迫っていくところが、まず一つこの「ワルキューレの降誕」の中核です。

warukyu01.png

ちなみに上の場面は、ワルキューレがちょうど大女神様から任務を授けられるところ。なんか猫口になっている大女神さまが可愛い。ちなみに、もう一人の黒髪の女神さまは即天宮の女神ヴィオレット。この人もとてもいい味出しています。

ワルキューレって元々、ファミコン版「冒険」では特定のセリフが用意されていなかったこともあり、プレイヤーが独自にそのキャラクターを想像したり妄想したりしていたんですよね。ファミコン版のパッケージでは凛とした姿を見せるのみだったワルキューレが、実は天然気味なお転婆猪突猛進女神さまだったというこの意外性は、富士宏先生がワルキューレの設定を公開された当初から、ワルキューレというキャラクターの大きな魅力の源泉で有り続けていたと思います。というか大女神様もですが、マーベルランドの神族の皆さんは割とみんな人間くさくて面白い。

ところで。

この「ワルキューレの降誕」は、単にワルキューレの成長と活躍を楽しむだけの漫画ではありません。地上界には地上界で、独自に謎の現象を調査しようという動きがあり、ワルキューレの物語は地上人たちの物語とも交錯することになります。

そこで登場するのが、後に「伝説」でプレイヤーキャラクターとして登場するクリノ、の二世代前にあたる「サンドラ」のマルマノ。そして、何の因果かマルマノとコンビを組んで謎を追うことになる、アファ大陸ドルツァ大学の新米教授、アイリーア・バルクさんです。

このアイリーアさんがめっちゃかわいい。

ワルキューレ1.png

画像右下が正統派眼鏡っこ教授、アイリーアさんです。なにこの照れ気味の笑顔可愛い。露出の欠片もない服装も素晴らしい。このアイリーアさん、富士宏先生一流の描写で、特に狙っている様子もないのに挙動がいちいちかわいらしく、初めてみる天上人であるワルキューレにミーハー感を丸出しにしたり、調査に夢中になって完全に他のことが見えなくなったりと、暴走気味の行動も非常にいい味出しています。「ワルキューレの降誕」自体をアイリーアさんの行動を観察する漫画と考えても良いと私は思います。

アイリーアさんは「天文学」と「古代学」を研究しており、その知識とやや空回り気味の努力をもって、マルマノと二人で謎の現象の核心に迫っていくことになります。

ちなみに、隣にいるサンドラが、村の都合で調査に派遣された、サンドランドの農夫マルマノです。マーベルランドではサンドラは特に珍しい存在でもないようで、大きな街でもごく自然に受け入れられている描写がほのぼのとしていて読んでいて気持ちいいです。

マルマノとアイリーアは、本当に成行上一緒に行動することになるだけなんですが、クールナに追っかけまわされたり崖から落っこちたりワープゾーンでぶっ飛ばされたり、コンビで色々と大変な目に遭います。友情という程ではなく、かといってただの協力関係という程薄くもない、この二人の微妙な距離感についても本作の見どころの一つだと言っていいでしょう。

このアイリーアとワルキューレ、お互い「新米」「目的にひたむき」「努力が空回りすることもある」「ちょくちょく失敗する」などなど、様々な共通点があるんですね。言ってみればアイリーアはワルキューレに続く二人目の主人公でして、その奔走と成長は、「降誕」のお話のもう一つのコア要素になります。

「ワルキューレの降誕」は、善かれ悪しかれ決してお話自体のスケールは大きくなく、「ひとつの事件」にまつわる話として展開し、収束します。

「迷楼館のチャナ」や「午後の国」でもそうですが、富士宏先生の描写ってとてもスマートで、見ようによってはあっさりしているので、物語のボリューム的にも決して重くはないんですね。人によっては物足りなさも感じるかも知れませんが、気軽に読める射程距離でもあるということですので、ご興味おありの方は是非。ゲーム版「ワルキューレの冒険」や「伝説」とご存知なくても特に支障ない作りですので、「ワルキューレやアイリーアが可愛い」というくらいの軽い動機でも一向に問題ないと思います。

取り急ぎ、今日書きたいことはそれくらいです。


posted by しんざき at 07:00 | Comment(0) | 書籍・漫画関連 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年12月19日

geocitiesのサービス停止によって大好きなWeb漫画の公開が停止される恐れがあるので作者様にご連絡したい

皆さん、「熱い競馬漫画」って読んだことありますか?読まれていない人で、web漫画に抵抗がない人であれば是非読んでみて頂きたいなーと思うんですが。


序盤こそやや絵が荒削りな感じもありますが、描写から構成からストーリー展開から、何から何まで超面白い。途中から絵もどんどんこなれていきます。

お話自体はタイトル通り「競馬漫画」であって、主人公であるフユとその愛馬ヴィップクオリティが活躍したりしなかったり、様々な競馬模様を中心に展開するのですが、そのお話作りは文字通り「群像劇」であって、フユと全然関係ないところでもお話は進むし、様々なライバル関係や熱い勝負が描写される訳です。

特にダービーとジャパンカップのストーリー描写については、完全にアマチュア離れしていると思います。これサンデー辺りに連載されてても全然不思議じゃない、って私思いましたもん。モンデューとタッチカムカムの一騎打ちと、そこに至る様々な選手の思惑の交錯が凄まじい完成度だと考えるわけです。

個人的には、これと「ニート様がみてる」を二大web漫画として推したいくらいの気持ちなんですが、残念ながら2012年時点で更新が途絶えてしまい、それ以降作者さんもwebに姿を見せていない状態が続いています。残念。超絶残念。

なんらかの奇跡が起きて更新が再開されないかと、今でも結構本気で待ち続けているんですが。

それはそうと、ジオシティーズは来年3月末にサービスが終了してしまいます。



いや、ジオシティーズ自体、日本のweb黎明期からwebのコンテンツをインフラ面から下支えしてきたサービスであって、これによって見えなくなってしまうコンテンツがどれだけあるかということを考えると、正直infoseekのサービス終了と同程度か下手するとそれ以上の大インパクトだと思いはするのですが、個人的にはもー一部の大好きなweb漫画が公開されなくなってしまうのがとても無念で。移転して下さっているところはまだいいのですが、熱い競馬漫画なんか、作者さんが今webをご覧になっていない可能性もあり、個人的に大痛恨事過ぎるわけです。

公開停止によって、微粒子レベルで存在した更新再開の希望が恐らく完全に潰えることもさることながら、この「熱い競馬漫画」というコンテンツが誰の目にも触れなくなってしまうのがとにかく悲しい。自分ひとりであればローカル保存で対応出来ないこともないんですが、出来ることなら皆さんの目に触れ続けていて欲しいコンテンツであるわけなんです。

作者のもょもとさんの現在のご状況がどうなのか、勿論知る由もないですが、もしご許可頂けるのであれば、なんなら移転作業全部やった上で管理権限お渡ししてもいい、くらいの勢いなんですが、どなたか連絡取れる方とかいらっしゃいませんか。一応Twitterで作者様アカウントにDMを投げてはみたんですが、正直2012年から停止しているTwitterを今ご覧になる確率がどれくらいあるのか、というのは大変心もとないところでして。。。

単に「熱い競馬漫画をwebに残したい」という一心の話ですので、どなたかご賛同、ご協力頂ける方がいたら何卒よろしくお願い致します。

それはそうと、上で書いた「ニート様がみてる」については先日作者様が移転してくださっていました。ぶち嬉しい。


こちらはこちらで、ギャグ漫画というかラブコメ調なんですが、「Vipper出身の男子高校生が女装して女子高にもぐりこんでドタバタする」というストーリーにピンとくる人でしたらまず気に入ると思いますので、是非ご一読頂ければと思う次第なのです。ちゃんと完結してます。

今日書きたいことはこれくらいです。

posted by しんざき at 12:23 | Comment(3) | 書籍・漫画関連 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年12月07日

影浦隊のゾエさんがあまりにも有能過ぎて辛い


前回に引き続いて、ワールドトリガーの話です。最新巻のネタバレが含まれますので、ワールドトリガー19巻を読んでいない方には非推奨の内容となっております。まだ読んでない人は読みましょう、19巻。超面白いので。あとワートリが移籍したジャンプSQも購読しましょう。



19巻を読んでいて、何より、他の何よりも改めて実感したのが、「ゾエさんが余りにも有能過ぎる」というその一点です。ゾエさん凄い。13巻の時点でも十分有能だったけど、今回のランク戦での有能さはゲージ振り切れてます。ボーダー全体で見てもトップ3に入る有能さなんじゃないか、と思わせるくらい有能です。

まず念のための確認なんですが、ゾエさんというのは影浦隊にいる北添尋さんの愛称です。ゾエさんは影浦隊のガンナーであって、ふくよかな体格、温和な人格、国近や当真よりはだいぶマシな成績、ウザい適当メテオラなどで著名なキャラクターです。

作中ゾエさんの主要な出番は、主に「ROUND4での戦闘」「ROUND6の解説」「カゲのお好み焼き屋さんでの食事」「ROUND7の戦闘」の4つになります。

ゾエさんがいかに凄いのかという話は、以下のような諸要素にまとめることが出来ます。

・見るからにアクが強いメンバーの中でムードメーカーを完璧に努めている
・ガンナー、戦闘員としての能力も非常に優秀
・かく乱役も連携してのフォロー役も出来るマルチロール機っぷり
・頭の回転が速く、咄嗟の戦術的対応に優れている
・ツッコミにも回れる

順番に行きます。



〇見るからにアクが強いメンバーの中でムードメーカー・バランサーを完璧に努めている

まずコレ。初手これだけで既に十分凄い。

いや、冷静に考えて、影浦隊の連中ってアク有り過ぎだと思うんですよ。個々人の仲が悪いかというと決してそういう訳ではなく、チーム内の仲はむしろ非常に良いとは思うのですが、仲良し同士でトラブルが起きないかというとそういう訳でもなく、仲良し同士でトラブルが起きた際にどうリカバリを試みるか、というのはスキルを必要とする問題です。

影浦は言うまでもなく非常に誤解を招きそうな素行・言動がデフォルトですし、ユズルも見るからに非コミュ非コミュしています。ヒカリも内面がどうあれ言動はあんな感じで相当荒っぽいべらんめえオペレーターなので、人間関係的にはかなりのリスクを孕んだ状態だということがまず言えます。正直なところ、この3人だけだと、人間関係がいつどんなタイミングで険悪なことになるか分かったもんじゃないと思います。

そこで、ただ一人で全体の人間関係のバランスをとっているのがゾエさんなわけです。ROUND4では、「なるべく粘って死ね!」だとか「頑張って逃げて」などというそんざいないじられ具合に対しても、「なんかゾエさんの犠牲軽くない?」などとさらっと受け流してユーモアに変えてしまいます。集団の中でのいじられ役を引き受け、しかもそれをコントロールして雰囲気をよくするって、既にその時点でただ事じゃないコミュニケーションスキルですよ。ヒカリや影浦の攻撃的な言動をゾエさんが一人で引き受けて交通整理している、という見方も出来ると思います。

自分のことをポイント呼ばわりした二宮相手でも「ですよねー」と笑顔を返せるゾエさん(その間に炸裂弾射出)、マジ人間が出来ている。出来まくっている。

直近のROUND7では、ダメージを受けた影浦に対して「大丈夫大丈夫、立て直そ立て直そ」など精神的なフォローを入れている他、SQに移ってからの描写でも影浦の心理的フォロー役に回っている描写が観られます。影浦がイライラした時の手綱を握れるの、ゾエさん以外にいないと思うんですよ、コレ。

いじられるばかりではなくツッコミやいじり役に回ることもあり、例えばお好み焼き屋の描写では、チカに対するユズルのスタンスをゆるく冷やかしたり、影浦の言動をちょいちょいフォローする描写も見られ、「ともすれば非コミュ非コミュしてくる影浦隊の人間関係を、殆ど一人で和ませている」様子が明らかになっています。正直、ゾエさんいなかったらチームとして成立してないと思うんですよ、影浦隊。

いじられ役からムードメーカー、心理的なフォロー役まで、およそチームビルドに必要そうな役割を一手に担っているゾエさん。まずこの時点で、ゾエさんのただものでなさを感じて頂けるでしょうか。



〇ガンナー、戦闘員としての能力も非常に優秀
〇かく乱役も連携してのフォロー役も出来るマルチロール機っぷり

元よりA級部隊でガンナーを張っていたわけなので当然と言えば当然なのですが、ゾエさんは戦闘員としての能力も非常に優秀です。

指標となるパラメーターでも、トリオン9、攻撃7、防御7と、メインとなるパラメーターが既に優秀。ROUND4でこそ、相手が相手だけに二宮と東さんの引き立て役という印象がついてしまっていたものの、炸裂弾で戦況を動かす役では十分なパワーを見せていました。

そして今回のROUND7では、シールドで影浦のフォローをしつつ、ガンナーとしての中距離戦で圧倒的な火力を見せつけています。鈴鳴の新戦法にこそ一旦退いたものの、中距離戦の戦力としては他に大きく水を空けていると考えて良いでしょう。

「適当メテオラ」という戦術自体が、回避性能がバカ高くて乱戦に強い影浦のチャンスメイク役として非常に優れているのはROUND4の描写でも分かる通りで、それに加えて「自分でも点を取ることが出来る」ガンナーという、フォローもかくらん役もポイントゲッターも全部出来るというマルチロールっぷり。下手なオールラウンダーよりもオールラウンドな戦いっぷりです。

また、作者評で「サイドエフェクトを除いた生身の戦闘力ではレイジと並ぶ2トップ」という話もありますので、大規模侵攻でレイジがやってたヒュースぶん殴りみたいなことをゾエさんも出来る可能性が高いわけです。凄いぞゾエさん強いぞゾエさん。

ということで、「コミュニケーション能力ばかりではなく、戦闘員としても十二分に強いゾエさん」というのが、19巻までの描写で確立されているという話なわけです。



〇頭の回転が速く、咄嗟の戦術的対応に優れている

ちなみに、戦闘だけではなく、頭の回転、戦術思考的なところでもゾエさんはただものではありません。

ROUND3で二宮に落とされる直前、最後にきっちりとメテオラのかく乱で仕事をしていることが皮切り。

ROUND6の実況解説では、都度都度戦況的なところで鋭い指摘を見せていたのがゾエさんです。ROUND6では王子隊が一番戦況を読んで動いていたわけですが、それについてもゾエさんは把握・指摘していて、「一番戦況を読んでるっぽい王子隊が一番落とされているのが皮肉」だとか、「わあ王子痛い、次はスナイパー落としにいくつもりだったろうに」というような、きちんと考えて動いている王子隊の動きを的確に捉えた解説が見られました。

それに加えて、ROUND7では咄嗟の対応・機転も冴え渡ります。照明のオンオフをコントロールしている太一をユズルが落とせないとみるや、即部屋の照明を壊して有利不利をなくす対応は、犬飼さんにも「地味に気が利いてる」「ゾエのこういうところ好きだなー」と評されています。地味どころかこの対応って鈴鳴の戦法に対処する為の唯一解に近いものでして、これをほぼタイムラグなしで思いついて実行出来る時点で、ゾエさんの頭の回転が物凄いと思うんですよ。

SQに移ってからの展開でも「そこまで考えていたのか」的な咄嗟の対応描写がありまして、とにかくこのラウンドではゾエさんの株が爆上がりです。

大筋、「追い詰められた状況」「カオスな状況」「対応時間に余裕がない状況」で、それでも最善、次善の選択肢をとることが出来ているというのが、ここまでの描写でわかるゾエさんの対応能力でして、突発状況がわんさか出てくるトリガー戦での対応能力も一級品と評して差し支えがないでしょう。



〇ツッコミにも回れる

「ほう…ハンピレー」「流石に反比例は知ってるよね?トーマくん」

の会話がめっちゃ好きなんですけど皆さんいかがですか。


ということで、長々と書いて参りました。
私が言いたいことを簡単にまとめると、

「影浦隊のゾエさんは下手するとボーダー全体を見渡しても屈指の有能さなのではないか」
「皆さんゾエさんのヤバさをもっと知るべきだと思います」
「本当にぜんっぜん関係ないけど実況してる結束夏凛さんが可愛いと思います」

の3点だけであって、他に言いたいことは特にない、ということを最後に申し上げておきます。

今日書きたいことはそれくらいです。

posted by しんざき at 06:45 | Comment(2) | 書籍・漫画関連 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年11月29日

浦沢直樹先生は風呂敷を畳めない訳じゃない、あまりにも「序盤力」が高過ぎるんだ

すいません大した話ではないんですが、某大風呂敷が云々という案件について「浦沢直樹か」というコメントが複数ついているのを見かけたので、ちょっと脊髄反射させて頂きます。

確かに、浦沢直樹先生の長編作品で、「話の締め方がちょっと肩透かし」という印象を受けることがないとは言いません。「あれ?これで終わっちゃうの?」と思うことがないとは言いません。直近だと、BILLY BATでは私も確かにそう思いました。ネタバレは避けますが、もうちょっと読みたかったなあというか、アレあの着地だったらあと2巻くらいかけて描写しても良かったんちゃう?と思ったことは否定出来ません。

ただ、少なくとも私の考えでは、それを「風呂敷の畳み方が下手」呼ばわりするのは、あまり公平だとは言えない。

何故かというと、そもそも浦沢直樹先生くらい「面白そうな風呂敷を広げることが出来る」漫画家はそうそう存在しない、と考えるからです。

そもそも、我々は何故、浦沢先生の長編作品を読んで「肩透かし」と感じるのでしょう?

その理由は明白であって、「序盤〜中盤にかけて膨らんだ期待感程には、終盤の展開が綺麗な着地を見せないから」です。

浦沢作品は、別に着地しない訳ではない。ゴールにたどり着かない訳でも、打ち切りによって唐突な終了を余儀なくされる訳でもないんです。全部ちゃんと終わってるんです。

ただ、序盤中盤で期待値が高くなり過ぎて、読者がその期待値を収束させられないだけ。Monsterも、20世紀少年も、ちょっとお話の性格は違いますがPlutoだってそうだったじゃありませんか?

期待を裏切られる為には、まず期待を膨らませなくてはいけません。普通の漫画では、まずそもそも、そこまで序盤〜中盤までで期待が膨らみません。「これどうなるのかな、どうなるのかな」というワクワク感が醸成されません。そこまで期待が膨らんでいなければ、ラストの展開が「普通」であったとしても、「肩透かし」「期待外れ」などと言われようもないわけです。

しかし、浦沢先生の長編漫画は、そのことごとくが「ラストが肩透かし」などと言われてしまう訳です。これ、「どんな長編を描いても、序盤・中盤で読者を物凄く引き込んでしまう」という訳であって、これ実は物凄いことをやってるんじゃないか?と思うんですよ。

浦沢直樹先生に対する私自身の評価は、


「面白そうな序盤・中盤を描く天才」


です。長編漫画において、ここまで外れなく、「面白そうな伏線」「先が気になる展開」をばらまいて、読者を夢中に出来る漫画家さんというのは、漫画界全体を見渡しても稀有なのではないかと思います。

そこから考えると、浦沢先生に対して「風呂敷をたたむのが下手」という評価を投げつけるのは必ずしも適当ではなく、「風呂敷を広げるの上手すぎ」「あまりにも高すぎる序盤・中盤力」という評価こそ正当なのではないか、と、少なくとも私は考える訳なんですよ。

ここ最近、ビッグコミックオリジナルでは浦沢先生の「夢印」が連載されている訳でして、先日までは何かよく分からないおっちゃんが誘拐してきた幼女に対して自分語りをしている漫画として認識していたところ、ちょうど最新号では大きく話が展開しそうな状況になっているわけです。夢印の今後を楽しみにすると共に、またワクワクする話を浦沢先生が描き出すことを期待すること大な訳です。

それはそうと、私自身が浦沢先生の漫画で一番好きなのは「パイナップルARMY」だったりします。アレ超面白くないですか?一つ一つの話が、浦沢先生の序盤中盤の構成力のまま突っ走り切るのですから面白くない訳がないんですが、主人公の豪士を始め、珍やらコーツやら、味があるキャラクター満載です。キートンもいいけど、パイナップルARMYっぽい短編集もまた読みたい。

あと、これも全然関係ないんですが、私の中で「終盤力最強」の漫画家は岩明均先生です。「七夕の国」とか「寄生獣」とか、何をどうすればあそこまで完璧な収束に出来るのか理解出来ない。七夕の国超面白いんで読んでない人は読んでみてください。


今日書きたいことはそれくらいです。

posted by しんざき at 07:00 | Comment(12) | 書籍・漫画関連 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年11月28日

ワートリの別役太一さんの仕事があまりにも物語上完璧過ぎて感動するしかない

正直別役太一さんのことを舐めてました。ここまで「出来る」キャラクターだとは思っていませんでした。マジでごめんなさい。

再開早々クオリティ高すぎて最の高であるワールドトリガーの話なんですが、完全に本誌で読んでいる人向きのネタバレアリ話でして、コミックを待っている方には以下記事を読むことを非推奨とさせて頂きます。早く出て欲しいですよね、19巻。マジ楽しみです。

ということで、以下は折り畳みます。





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posted by しんざき at 07:00 | Comment(3) | 書籍・漫画関連 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年10月16日

ドラゴンボールは何故「桃白白前」と「桃白白後」で分けて考えるべきなのか


ドラゴンボールの話です。多分既出テーマも色々含まれてると思うんですが、気にしないことにします。

世の中には、「開始当初の方向性が大きく変わってしまった漫画」というものがあります。割りと数多くあります。

「開始当初は〇〇漫画だったのに、段々と××漫画に」というフォーマットを使うと、例えば〇〇には「日常」とか「冒険」とか「活劇」とかいう言葉が入って、××には「バトル」という言葉が入る例が、例えばジャンプ漫画では比較的頻繁に見受けられます。ブリーチとか幽白とか遊戯王とか、皆さん多分色んな例を思い浮かべて頂けると思うんです。

これが悪いという訳では全然ありません。漫画の肝はまず何よりも「面白さ」であって、「面白い!!」と感じる読者をどれだけ作れるかが勝負です。そういう意味では、「面白い!」と感じる読者が多い方に路線変更するのはアリアリ大アリの手段であって、文句を言うようなところではない。現在「路線変更」が記憶に残っている漫画は、その殆どが「路線変更が結果的に成功した漫画」である、という事情もあるでしょう。路線変更自体は別に悪いことではない。

ただ、個人の好みからすると「路線変更前の方が好きだったなあ」というのが出てきてしまうのは仕方がないことであって、時には「1話完結型で、色んな事件を解決していく人情ドラマの幽白も読んでみたかったなあ」とか、「ハードボイルド路線のままであんまり下ネタとか入らないシティハンター読んでみたかったなあ」という人が出てくることも、それはそれで無理からぬことだと思うんです。



ところで、凄い個人的になんですが、私には「バトル展開にならなかったドラゴンボール」はそれはそれで絶対に面白かった筈だ、という確信があります。今ほど人気が出たかというと多分出なかったろうけど、それでも、絶対に面白かった筈だ。

勿論、今更言うまでもなく、ドラゴンボールはバトル漫画の金字塔であって、ありとあらゆるバトル漫画に影響を与えまくっているお化け漫画でもあります。「強敵に出会う」「修行して強くなる」「その強敵を倒す」という超克の物語がいかに面白いか、それをあのクオリティで描き出していることがいかに物凄いことか、もはや議論は不要かと思います。

ただ、それでも。ドラゴンボールにはあるターニングポイントがあって、その「ターニングポイント前」の話も私は好きだったなあ、あのままお話が進んでいてもきっと面白かっただろうなあ、と私は考えてしまうのです。

まず、「当初のお話」から始めましょう。

***

ドラゴンボールは、物語開始当初、間違いなく「悟空と周囲のギャップを中核とした冒険活劇コメディ」でした。これについては議論の必要がないと思います。

つまり、悟空という「ちびっちゃい少年」「しかし凄く強い」「常識がない」というキャラクター。彼が色んな人や色んな問題に関わっていく中で、周囲がそのギャップに驚く、瞠目する、大騒ぎになる。それが、物語当初のドラゴンボールの主要な展開だったのです。

例えば、車を見たことがなかった悟空が、怪力で車を壊す。鍵を知らない悟空がドアを壊す。見慣れない文明物に対して悟空が珍妙な感想を漏らす。この辺は、文明社会に対する異邦人が活躍する、いわゆる「異邦人もの」ジャンルではごく定番の展開です。悟空の強さは、異邦人展開を描写する為のツールのようなものでした。

ブルマという「(比較的)常識的なキャラクター」は、その為に存在しました。彼女は、物語当初、悟空という存在がどんなに型破りな存在なのかを、読者に実にスムーズに教えてくれました。時には悟空の常識のなさに振り回され、時にはその強さに驚き、一方で彼をドラゴンボール探しというストーリー展開に引き込んでいく。「西遊記」という物語を遠い下敷きにしたこの構造は、それだけで十分読み応えのあるストーリーだったといっていいでしょう。

では、言ってみれば「奇想天外な冒険活劇コメディ」だったストーリーが、「強敵との戦いと超克」の物語になったのはどこなのでしょう?


私自身は、そのターニングポイントを「桃白白戦だったのではないか」と考えています。


勿論、桃白白戦の前に修行とバトル展開がなかったのかというと、そんなことはありません。悟空はヤムチャと戦いましたし、亀仙人の元で修行して天下一武闘会に参加しましたし、レッドリボン軍とカチ合ってホワイト将軍やブルー将軍と戦いました。

けれど、少なくとも私が考える限りでは、最初の天下一武闘会周辺の展開は、まだ「冒険活劇」の一部だったと思うんですよ。

例えば、天下一武闘会では、当初悟空の小ささを甘く見る相手が複数出てきます。予選の相手もそうだし、ギランもそうだし、なんならナムだってそうです。

レッドリボン軍編は、「小さな少年が武装マフィアを叩きのめす」という展開における「まさか」の爽快感こそが肝であって、そういう意味ではそのまんま、1巻や2巻の展開の延長です。マッスルタワーの1階や2階の展開なんて丸々「まさか」のカタルシス展開ですし、ムラサキ曹長との闘いはコメディ色の強いものでした。ホワイト将軍自身は、ガチンコだと全く悟空との勝負にはなりません。ブルー将軍との戦いも、どちらかというと絡め手と正攻法のせめぎ合いという感じでした。

何よりも、桃白白戦以前は、悟空には「超克の対象」がいなかった。

ジャッキー・チュンとの戦いは、強敵との超克というよりは痛み分け惜敗という感じで、負けてどうなるという戦いでもありませんでした。ピラフ一味にしても、ブルー将軍にしてもホワイト将軍にしても、どちらかというと「巻き込まれた先にあった障害」であって、そもそも「打倒しなくてはならない強敵」という位置づけではなかったのです。

それに対して、

・劇中初めて悟空が完敗する
・悟空がカリン塔で修行する
・修行して強くなった悟空が桃白白を圧倒する

という、いわば「修行と超克」のモデルケースともいえる展開を初めて読者の前に提示したのが、他ならぬ桃白白戦だった訳です。

この、「強敵が現われる→修行して力を蓄える、レベルアップする→激戦の末強敵を倒す」という展開は、その後何度となくドラゴンボールの劇中に出現することになります。

この後、直後のレッドリボン軍本拠地戦ではまだ多少のコメディ色があったものの(エレベーターを使わないで頭突きで上の階に上がる悟空とか)、その後の占いババ編、22回の天下一武闘会、ピッコロ編と、お話は徐々にコメディ活劇色を薄くしていき、連綿と続くバトル展開が始まったことを考えると、

「桃白白以前」と「桃白白以後」でははっきりとお話の性格が変わっている

ということは、かなり明確に言えると思うんです。

勿論私は、「桃白白以後」のドラゴンボールも好きです。ピッコロ戦も、サイヤ人編も、フリーザ戦も、その後の諸々も、それぞれに素晴らしいドラゴンボールだったと思います。

一方で、「桃白白以前」のドラゴンボール、悟空が非常識な存在のままであって、周囲が悟空の行動や強さに驚愕していた、あの「冒険活劇コメディ」も、それはそれで素晴らしいドラゴンボールだったと思うんですよね。なんならあの後、ドラゴンボールを集めてボラを生き返らせた後、元の展開に戻ってまた気ままにブルマたちと旅を続けるドラゴンボールも、もしかするとあり得たかも知れない漫画として、間違いなく面白かったんじゃないかと。

私はそんな風に考えているのです。

ちなみに、全然余談なんですが、桃白白さんは「初めて悟空に完勝した」「かめはめ波以外の光線技を披露した」「悟空の超克の対象になった」「その後のバトル展開のターニングポイントになった」ということのみならず、第23回天下一武闘会では「悟空陣営がどれくらい強くなったかの物差しになった」という役割まで担っており、ドラゴンボールの物語全般においても滅茶苦茶な重要キャラクターです。ただ自分で投げた柱に乗って飛んでいるだけが桃白白さんではない。皆さん桃白白さんのヤバさをもっと知るべきだと思います。

もう一つ余談として、この記事自体は「ドラゴンボールを先輩に勧められて読んでみたけど面白くなかった」という記事を読んで思いついたものなんですが、面白かった面白くなかったは完全無欠に人それぞれであって、他人がケチをつけることでは一切ないと思うので、当該の記事に関して言いたいことは特にありません。楽しめなくて残念でしたね、だけでいいんじゃないでしょうか。

今日書きたいことはそれくらいです。


posted by しんざき at 14:28 | Comment(12) | 書籍・漫画関連 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年10月09日

ところで「リボーンの棋士」が面白いのでかなりの勢いでお勧めします

もう皆さんとっくにご存知かも知れないんですが、ビッグコミックスピリッツの「リボーンの棋士」が面白いです。最初の頃は正直そこまで注目していなかったんですが、どんどん面白さが増してきていまして、今は「アオアシ」に次いで、スピリッツ購入事由第二位の位置を占めつつあります。


作者は鍋倉夫さん。ちょっと調べてみたんですが、どうもこの作品がデビュー作の方であるようです。

リボーンの棋士は、勿論タイトルを手塚先生の「リボンの騎士」になぞらえていると思うんですが、作品的にはそれを意識しているように思えるところは全くなく、実にストレートな将棋漫画です。ただ、「奨励会を年齢制限で退会した」いわゆる「元奨」の人物が主人公であることが、ストーリー上の大きな特徴になっています。ハチワンダイバーの菅田なんかも元奨でしたよね。

以下、折りたたみます。


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posted by しんざき at 07:00 | Comment(0) | 書籍・漫画関連 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年06月26日

何故「ドラえもん のび太の大魔境」が私にとって大長編ドラえもん最高傑作なのか


先に断っておきますが、この記事には漫画原作版「のび太の大魔境」のネタバレが含まれます。

もしまだ「ドラえもん のび太の大魔境」を読んだことがない人がいるのであれば、ひとつうそつ機で騙されたと思って買って読んでみてください。画像掲示の為にリンクは張りますが、別に下リンクからでなくてもいいので。超面白いです、のび太の大魔境。


以前も書いたんですが、私の「大長編ドラえもん」歴は、「のび太のアニマル惑星」辺りで一旦途切れて、夢幻三剣士とかブリキの迷宮とかをちょこちょこ読んで、その後長男の影響で「ひみつ道具博物館」辺りから復活した、という感じの経緯になります。最近のは漫画原作がないので読んでないんですが、漫画原作がある時代のものはすべて漫画原作で読んでいます。

その範囲内で、「私が好きな大長編ドラえもん」を順位づけすると、以下の通りとなります。

1.のび太の大魔境
2.のび太の宇宙開拓史
3.宇宙小戦争
4.海底鬼岩城
5.日本誕生

次点で鉄人兵団、魔界大冒険、竜の騎士、恐竜辺りが僅差で並んでいます。

「宇宙開拓史」や「宇宙小戦争」の最大の魅力が、なんといっても「強力な敵役と、そこに追いつめられての大ピンチからの大逆転」であることは間違いないと思います。以前もその辺については記事を書きました。以下、気が向いたらご参照ください。
ギラーミンさんとの決闘展開超熱かったですよね。

一方、のび太の大魔境は、そこまで「超強力で魅力的な敵役」というものは出てきません(いや、ダブランダーとかサベール隊長とか、それなりにいい味出してるんですが、流石にギラーミンやドラコルルに比べれば一歩譲ると思います)。それでも、大魔境は私の中で最高の名作になっています。

本記事では、「私はなぜ大魔境がそんなに好きなのか」という話を、つらつらと書いてみたいと思います。

私が考える限り、大魔境の素敵ポイントは6個くらいあります。

・冒険の動機と「未知の地域の探検」が一直線につながっていて、単純に冒険自体がわくわくする
・ひみつ道具が使えなくなる展開がごく自然で素晴らしい
・ピンチと、そこからの脱出によるカタルシスがシリーズ中でも屈指
・ピンチ脱出に係る伏線と、その伏線の回収が完璧
・キャラクターそれぞれの活躍がきっちり描かれていて素晴らしい
・食事シーンが戦慄するまでに美味そう

以下、折り畳みます。

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posted by しんざき at 07:27 | Comment(4) | 書籍・漫画関連 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年04月12日

聖闘士星矢の展開以外で12星座を覚えることが出来なくて困っている

今からどうでもいいことを書きます。


しんざきは割と残念な記憶力の所有者でして、物事をなかなか覚えることができません。ダライアス外伝の敵出現パターンとか、パーツ破壊の順番とかなら覚えられるんですが、一般的に必要そうな知識は記憶するのに一苦労します。

で、そんな中の一つ、割と一般的に潰しが利きそうな知識として、「12星座の順番」というものがあります。おうし座から始まってうお座で終わるアレです。

皆さん覚えてますか?順番に言えますか?12星座。あれ、子どもがいると、唐突に「わたしはなに座でしょう!」とか聞いてくることがあるので、結構考えることが多いんですよ。

で、当然のことながら私は正攻法ではとても12個もの順列を記憶することができませんので、何か別なもので記憶を代替させようとするじゃないですか。たとえば干支であれば、「ねずみのちゅーすけさん、うしにのって おまいりよ」みたいな歌がありますので、咄嗟に思い出すことも出来るわけなんですが、12星座はそれに該当するものがないんです。いや、もしかしたらあるのかも知れないですが私が知らないんです。

そこで出てくるのがアレです。そうアレ。


聖闘士星矢 黄金聖闘士編


現在の30代〜40代男性であれば、恐らく7割から8割が影響されているであろうお化けコンテンツが聖闘士星矢です。最近は色々リメイクもされているわけでして、もしかすると10代の少年ズにも多少はタイトルが知られているのかも知れません。

12星座の間に重大なヒエラルキーを作ってしまった罪深い漫画でもありまして、獅子座や乙女座がデカい顔をする一方、蟹座や魚座が肩身が狭い思いをしたりもしましたよね。あったあった。かに座はマニゴルドが超かっこよかったので多少救済された側面もありますが、デストールが追加攻撃を仕掛けてきて色々アレでしたよね。いやまあデストール強いし結構いい味出してはいるんですけど。

私は黄金聖闘士編の展開ならほぼ完ぺきに覚えているので、黄金聖闘士と星矢たちが戦う順番を思い出すことによって、12星座の順番をシミュレートすることが出来るんですよ!!!超便利!!!!

順番に考えてみましょう。

まず最初に、白羊宮にムウがいます。ムウは当然星矢たちの味方なので、最初は戦わず、黄金聖闘士の強さについての説明だけをしてくれます。これ、最初にガチで戦わないチュートリアル的なキャラがいるってゲーム展開的に素晴らしいですよね。車田先生の星座配置能力が光ります。

次に出てくるのがアルデバランです。彼、元々ちょっと葛藤があったこともあって、若干星矢成長の噛ませっぽい演出をされてしまったところもあるんですが、まあ羊→牛という展開的には特に問題はない。

次に…謎の顔が黒い聖闘士てめえサガちゃんと双児宮にいろよ俺が覚えられないじゃねえかこの野郎、と思わないでもないですが、彼が立場的に双児宮にいられないのは理解出来ますので仕方ないとしましょう。

そして安定のデスマスク、アイオリア、シャカの並びが続きます。かに座→しし座→乙女座の流れですね。デスマスクは言うに及ばず色々とアレなんですが、アイオリア→シャカの並びが実力的にヤバイ。青銅側のチートキャラ一輝を当てざるを得なかったシャカの強さは、当時ちびっ子たちの度肝を抜いたところです。

その次が氷河の師匠でもあるカミュ。みずがめ座ですね。ここで氷河は、師匠の手で氷の棺に閉じ込められてしまうわけです。

その次にさそり座のミロ、無人の人馬宮、やぎ座のシュラが続きまして、更にみずがめ座のカミュ、魚座のアフロディーテ…


ん、今みずがめ座2回無かったか?


そう。これが「黄金聖闘士で12星座覚えるよシステム」の最大にして最凶のトラップ。

「カミュが何故か宝瓶宮をほっといて天秤宮まで降りてきてたよ問題」

なのです。


てんびん座の童虎は皆さんご存知の通り廬山でお座りマスコットと化しておりましたので、天秤宮は本来無人の筈だったのですが、カミュが余程暇だったのか、氷河を戦いから降ろす為という口実でわざわざ出張して来やがりまして、そのせいで登場する順番が崩れてしまったのです。なんということでしょう。干支の詩でいえば、

「おうまはぽっくりこ、ひつじとかけくらべ、さるもあとからおいかける」

であるべき筈のところ、

「おうまはぽっくりこ、とりが突如乱入したのちひつじとかけくらべ、さるもあとからおいかける」

になっているようなものです。このようなアクロバティックな歌を前に、子どもたちは一体どのように振る舞えばいいのでしょうか。てめえカミュ!!宝瓶宮で大人しくしてろよ俺の記憶に重大な支障が出るだろ!!!!


ということで、「黄金聖闘士の順番で12星座を覚える時は、天秤宮にカミュが出張してきたことをきちんと覚えていないと大混乱に陥る」という問題について書いてみました。皆さんには是非、当該トラップを無事にくぐり抜け、健やかな12星座記憶生活を過ごして頂きたいと考えること大です。

なお、「聖闘士星矢 THE LOST CANVAS 冥王神話」は、手代木史織先生の手によるスピンオフ作品なのですが、内容が本気で熱い上にかに座のマニゴルドが超かっこいいので、未読の方は是非ご一読いただきたいと思うところ大です。特にかに座の方は是非。

極めてどうでもいい内容でしたが、今日書きたいことはそれくらいです。




posted by しんざき at 07:26 | Comment(2) | 書籍・漫画関連 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年03月23日

ジャンプでゴルフ漫画を連載することがいかに難しいか、という話


皆さん、「ライジングインパクト」って覚えてますか?



小柄でありながら天性の飛ばし屋でもある「ガウェイン・七海」を主人公とするゴルフ漫画。今はマガジンで「七つの大罪」を描いている鈴木央先生の作品です。

登場人物の何人かは「ギフト」という特殊能力を持っていて、ガウェインは450ヤード飛ばすわ、ランスロットは70ヤードのパットでも沈めるわ、トリスタンは風の影響を完璧に見切って120ヤードチップインさせるわ、まあ言ってしまえば超人ゴルフ漫画だったんですけど、当時凄い面白かったですし、私の認識では結構人気もあったと思うんですよ。面白かったですよね?

ただ、その「ライジングインパクト」ですら、ジャンプでは苦戦したようで。一度打ち切り→読者の要望で復活→再度打ち切りっていうルートをたどってるんですよ。


ジャンプで「一度打ち切られた漫画がそのまま本誌で復活」っていうのも相当特殊な状況ですから、まあ凄い熱意があるファンがたくさんいたんだろうと思うんですけど、それでもアンケートでは安定した順位がとれなかったってことですよね。あんだけ面白かったし、少年読者に分かりやすい工夫も色々されてたんだけどなあ。

ジャンプでのゴルフ漫画ってもともとそんなに数は多くなくって、多分「ホールインワン」と「隼人18番勝負」とライパク辺りが主要なところだと思うんですが、他にありましたっけ?ホールインワンも2年で終わってますし、隼人18番勝負も1年で終わっちゃってます。

「プロゴルファー猿」は言うまでもなく、「青空しょって」や「DANDOH!!」を擁するサンデーや、「あした天気になあれ」や「空の昴」が人気を博したマガジンに比べると、元々少年誌の中ではゴルフ漫画が不遇だったのがジャンプ、ともいえると思うんですよ。


で、皆さんお分かりの通り、現在ジャンプでは「ROBOT×LASERBEAM」が連載されています。「黒子のバスケ」で大人気になった藤巻忠俊先生の次回作です。


まず前提なんですが、ROBOT×LASERBEAM、私はすげー面白いと思ってるんですよ。

主人公の鳩原呂羽人も、「ゴルフ自体は素人だけど、一点集中型の凄い能力をもっている」っていう設定も王道だし、それでいてキャラクターは独特で、性格的にも好感が持てて。能力の見せ方にも、周囲からの認められ方にもカタルシスがあったし、周囲のわき役陣も最初っからすごいいい味出してた。鷹山とのライバル展開も、更にその上をいく朱雀恭介なんかのキャラクターの出し方も自然で、読んでいて気持ち良かった。

ただ、これも皆さんお分かりの通り、ROBOT×LASERBEAMは現在掲載順でも最後方グループ常連ですし、展開にも物凄いテコ入れが入っていまして、栄藍学院高校は殆どすっ飛ばされて三足飛びくらいにプロになってしまった。いきなりの3年後展開にはさすがに「そうくるかー」と思ってしまいました。


これ、藤巻先生的にはおそらく「高校編をもっとゆっくり描きたかった」というご希望があったと思うし、ほぼ出番がすっ飛ばされてしまった栄藍高校の先輩の面々も、ロボがプロを目指す展開も、プロテストに挑戦する顛末も、もっとゆっくり読みたかったなーと言う感想は正直捨てきれないんですよ。あの先輩たちも含めての高校生活とか、絶対楽しそうじゃないですか?

ただ、それでも恐らく、ジャンプ読者の間で広い人気がとれたのかっていうと厳しかったんだろうし、だからこそのテコ入れ展開なのか、あるいはほかの事情で超速展開になっているのか、いずれにせよやむにやまれぬ事情での今の展開だろうとうは思いますし。

これだけ面白くても人気がとれないのか、という点で、つくづく「ジャンプでのゴルフ漫画」って難しいんだなあ、と。また、黒子を描いた作者さんの次回作にもある意味容赦をしないジャンプは、まあ流石ということなのかなあとも、やや複雑な感情とともに考えるわけです。



個人的にはちょっと色々忸怩たる思いがありまして、私「ロボレーザービーム面白い」とは折に触れて言ってたんですけど、例えば不倒城でがーっと押したかっていうと、正直あんまり触れてないんですよね。

いや、勿論不倒城の影響力なんて吹けば飛ぶ程度のものなので、それを書くことで何か影響があったかっていうと死ぬほど怪しいところではありますが、それでも何人かの方は、それを読んで「お、こんな漫画があるのか、面白そうだな」と思ってくれたかも知れませんし。何より、「もっと書けばよかったなあ」と今になって思うこともなかったと思うんですよ。

自分で「好きなものは軽率に好きと言っていけ」などと言いながらこの体たらく、反省すると共に、今後とも面白いと思ったコンテンツは反射神経で褒めていきたいと、そういう風に考えた次第なのです。


今日書きたいことはそれくらいです。

posted by しんざき at 07:33 | Comment(0) | 書籍・漫画関連 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年03月09日

「アオアシ」の武蔵野戦があまりにも素晴らしいエピソード過ぎるので紹介させてください

どうもしんざきです。なんか最近ずーっとこれ言ってる感じですが、アオアシが超面白いんですよ。

「パパが読んでる本は面白い本」という認識を持っている長男も最近ハマりました。長男サッカーやめちゃったんで、「またサッカーやりたくなったりする?」って聞いてみたら「プロは別腹だから」というなんだかよく分からない回答が戻ってきました。良く分かりませんが特に問題はないそうです。

で、先日こんな記事を書いたんです。

アオアシの基本的な展開が、「才能はあるが洗練されていない主人公の成長と超克の物語」であることは間違いありません。「粗削りな才能を徐々に磨いていき、周囲に認められていく主人公」という筋書きは、スポーツものにおいて一つの王道です。何度か書いている「さすが」と「まさか」の面白さでいうと、バランス的に「まさか」に寄った筋書きですよね。
アオアシが、主人公の青井葦人を中心とした物語であることは間違いのない事実でして、アシトの能力、努力、成長、弱さ、強さ、全部ひっくるめてアオアシという作品の魅力の中核であることは議論を俟たないと思います。試合中の思わぬタイミングでのアシトの活躍気持ちいいですよね。

で、9巻から11巻まで、ほぼ丸々三冊をかけて描かれるのが、アシトが所属するエスペリオンユースと、武蔵野蹴球団ユースとの一戦です。9巻序盤の武蔵野偵察から、11巻の武蔵野戦決着までが、「武蔵野戦編」と言っていいでしょう。





この「対武蔵野戦」というのが、アオアシという作品の中でも出色の「群像劇」でして、現在のところ間違いなく作中ベストゲームであろうと思われたので、ちょっと紹介してみたくなりました。


以下は、ネタバレになりますので折りたたみます。画像は引用の要件を満たす形で引用します。



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posted by しんざき at 07:30 | Comment(0) | 書籍・漫画関連 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年02月21日

ところでスピリッツの「アオアシ」がめっちゃ面白いです

いや面白いんですよこれが。以前からおもしれーおもしれーとは言っていたんですが、特にここ数カ月の展開がより面白さにブーストかけてきてまして、今連載している週刊漫画の中では、個人的なトップ3に入ってきました。


ということで、今日はアオアシの面白さについてつらつら述べさせて頂こうと思うわけです。多少ネタバレが混じるのはご容赦ください。

アオアシは、ビッグコミックスピリッツで連載しているサッカー漫画です。数あるサッカー漫画の中でも、プロチームの下部育成組織である「ユースチーム」を描いていることが特徴です。

主人公の青井葦人は、愛媛の公立中学でサッカーをやっていたところ、粗削りの才能を「エスペリオンFC」ユースチーム監督の福田に見いだされ、紆余曲折の末エスペリオンのユースチームに参加することになります。そこで彼は、様々なプレイヤーとぶつかり合い、時には協力して、チームと自分自身を成長させていくことになります。


アオアシの基本的な展開が、「才能はあるが洗練されていない主人公の成長と超克の物語」であることは間違いありません。「粗削りな才能を徐々に磨いていき、周囲に認められていく主人公」という筋書きは、スポーツものにおいて一つの王道です。何度か書いている「さすが」と「まさか」の面白さでいうと、バランス的に「まさか」に寄った筋書きですよね。

手前味噌で申し訳ないですが、ちょっと以前書いた記事から引用します。

「まさか」のカタルシスというのは、要するに逆転のカタルシスだ。最初周囲から見くびられていた主人公が、「まさか」と思われる中強敵を倒すことによる気持ちよさ。弱かった主人公が、努力して超強くなる気持ちよさ。大ピンチに陥った仲間チームが、「まさか」と思われる大逆転をして勝利を収める気持ちよさ。

まあ戦闘もの少年漫画なんか、最終的には予定調和的に主人公が勝つものが大多数だとは思うけれど。それでも、そこに至る「まさか」という気持ちよさを演出するのは作者の腕の見せ所であり、この気持ちよさの大小がその漫画の面白さに影響する部分は大きいと思う。
ただ、アオアシの面白いところは、そこだけの話ではなく。いやむしろその「まさかのカタルシス」というのは副次的な話でして。


この漫画、「主人公の成長と覚醒具合」がすっごい絶妙なんです。


主人公のアシトは、地元の中学サッカーで無双出来る程度の実力は最初からあるのですが、きちんとした練習をしたことがなく、ユースチームの中ではフィジカルも技術も全然ダメな部類です。パス回しも苦手なら、ドリブルもフェイントも勿論いまいち。

で、この漫画の凄いところは、「その弱点については安易に成長しないし、解決しない」んですよ。

勿論、アシトのテクニックも全く成長しない訳ではなく、元来サッカー練習についてはひたむきなアシトは、色々試行錯誤してテクニックを身に着けようとしていくわけで、それも多少は実を結ぶんですが。ただ、テクニックはそんなに急に成長したりはしないし、フィジカルはそもそも根本的に解決しない。「フィジカル強い選手に当たったら当たり負けるよ」というのはどうしようもない訳です。

ではアシトはどういう側面で成長・あるいは覚醒するのかというと、それは「視野と戦術」

実はアシトには、「物凄い視野の広さ」という潜在能力がありまして、それこそフィールド上のありとあらゆる動きを拾い上げて、的確なボールの動かし方を考えることが出来るのです。

aoashi2.png

まずはここの、いわば「覚醒具合」が凄く絶妙で面白い。当初は戦術も分からなければ、自分の能力の意味にも気づいていなかったアシトは、技術面で散々苦労しながらも、色々なきっかけで自分の能力を活かせるようになっていき、周囲もアシトの視野の広さやコーチングの的確さに気付き始めます。これについては本当に少年漫画的で、様々な場面で絶妙なカタルシスがあります。「こいつ、只者じゃないな」と主人公が周囲から評価されていくのは、それこそ「まさか」のカタルシスの王道です。

一方で、テクニカルやフィジカルの問題は全然解決していないというか、周囲のレベルの高さに比べればアシトは素人同然なので、アシトは相変わらず色んな点で苦労しますし、そこから這い上がろうとあがきますし、少しずつ成長していきます。こちらの練習や成長具合については、凄い描写や展開がリアルなんですよ。それこそ普通のサッカー少年の世界。

いってみれば読者は、「少年漫画の主人公としての成長」と、「普通のサッカー少年の成長」を同時並行で読めるわけです。両方味わえて面白さ二倍。ここが多分、私がアオアシを面白いなーと感じるところの根本的なポイントだと思います。

また、主人公のアシトのキャラクターもとても良い。劇中当初は「才能頼りで調子に乗る俺様キャラクター」的な描写もあるのですが、自分のテクニック不足、フィジカル不足については彼、とにかく自覚が速いし、そこから逃げないんです。どうすれば克服できるか?どうすればそれをカバーできるかを真剣に考えるし、躊躇なく他人に頭を下げて教えを乞うし、適切なアドバイスはきちんと受け入れる。スポーツ漫画の主人公としてとても好感が持てます。


周囲のキャラクターもいい味を出してるキャラばっかりで、特にユース監督の福田は、アシトの特性を最初の時点から読み切って、劇中中盤でアシトに対して重大な選択肢を提示します。これもまた、サッカー漫画として「そうくるか」という物凄い展開でして、是非実際に読んで確かめて頂きたいと思うわけですが、まあ福田さんの「出来るヤツ」感物凄い。

アシトのサッカー仲間も、例えば当初アシトに当たりがキツかったり、色々衝突したりもするんですが、根本的にはいいヤツばっか感がありまして、その辺打ち解けていく描写も素敵だと思います。最近だとAチームの桐木の「変な名前。」が名言だったと思います。

まあ阿久津さんはなかなかデレないというか、アシトを敵視する悪役ポジションを保持しているわけですが、なにせアシトがとにかくひたむきなのでその内色々あるんだと思います。

あとヒロインがとてもかわいい。メインヒロインは多分二人いまして、

aoashi1.png

一人はエスペリオンの親会社である「海堂電機」社長令嬢である杏里、通称お嬢。普段冷静な語り口なんだけど、特にアシトが絡んで活躍したりするとあっさり冷静さをかなぐり捨てて盛り上がるのがかわいい(かわいい)。サッカーFCの監督を志しているキャラクターでもあり、サッカー知識も豊富でありながら劇中の他キャラクター程ではなく、読者視点での解説役になったりもします。


aoashi3.png

あと、お嬢よりもアシトとの付き合いが長い一条花。諸事情で上の画像ではぶすっとしていますが、スポーツ栄養士を目指している女の子で、こちらも衒いなくアシトを応援するキャラ。感情表現が素直でとてもかわいい(かわいい)。


目下、本誌ではこれまた超熱い展開になってきておりまして、アシトがAチームの試合に出ることになりそうでおいおいこれどうなるんだ、的な素晴らしい熱量なので皆さんにも紹介したくなった次第です。皆さんよかったらアオアシ読んでみてください。後悔はさせません。



今日書きたいことはそれくらいです。

posted by しんざき at 07:44 | Comment(3) | 書籍・漫画関連 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年01月12日

「チェイサー」の5巻がマジで面白い

超面白かったです。


いや、ゆーてもチェイサーは本誌に載ってる時は本誌買って全部読んでるので、話自体は把握してたんですが、やっぱ単行本という形でまとめて読むとまた格別だなあ、という話でして。

「チェイサー」自体については、下記記事で色々書いてるんでそちら参照してください。いや、今連載されてる色んな漫画の中でも、トップ3には余裕で入るくらい面白いと思うんですよ、チェイサー。


で、チェイサーは、勿論手塚治虫先生の同時代伝記とでもいうべき漫画であって、手塚先生の「チェイサー」である、同じく漫画家の海徳光一という人物を主人公としています。

チェイサーの面白さは、何と言っても「海徳先生が手塚先生を意識する時、「チェイス」する時のドタバタ感」という言葉に集約されると思うのですが、この5巻ではそこに重大な転機が訪れます。

つまり、少年漫画業界における手塚人気に陰りが出てしまい、一方海徳先生が「少年ジャンプ」で大ヒットし、作中の少年漫画人気では手塚先生を越えてしまうのです。

作中でも語られることですが、手塚先生には、一時期少年漫画業界での人気が低迷していたことがあります。1960年代後半から1970年代の前半、作風が厭世的になった頃ですね。

で、5巻の大筋はこの時期の話なんですが、海徳先生の方は、ちょうどこの時期に「俺のドラゴンボウル」というボーリング漫画を「ジャンプ」で描いて、これを大ヒットさせてしまいます。劇中、日本にボーリングブームを巻き起こした人物として、海徳先生は一躍時の人に。この辺り、実際にあったボーリングブームと絡めてくるあたりが、コージィ先生つくづく上手いですよね。

勿論この時期、手塚先生は「火の鳥」「奇子」「きりひと賛歌」なども同時並行で著していたわけであって、青年漫画の世界ではまだまだ物凄い存在だった訳なんですが、少なくとも少年漫画というフィールドでは、海徳先生は手塚治虫に完全に「勝って」しまう。

ところが、海徳先生の手塚コンプレックスは、解消されるどころか、うっかりすると更に悪化してしまうわけです。

元々手塚先生のインテリジェンスに憧れていたところのある海徳先生は、「おれのドラゴンボウル」が徹底して子ども向けの、いってみれば「おバカ」な漫画であることにコンプレックスを持ちます。「火の鳥」や「きりひと賛歌」を見て、「俺はこんなおバカなことを書いていていいのか!?」と葛藤しちゃうわけです。


この辺の葛藤の描写が、また上手いし超面白いんですよ。


この巻では、5巻におけるもう一人のメインキャラともいえる、ジャンプの編集者である日下(ひげ)氏が活躍します。彼のスタンスは単純明快。「少年漫画はインパクトと分かりやすさがなにより重要」「少年漫画で人気出たヤツが漫画業界で一番偉い」というのが彼の持論であって、時々ブレそうになる海徳先生を強引に引き戻すのは彼の手腕です。手塚先生のインテリジェンスに憧れて、「俺も少しはそういうのを描くべきなんじゃ!?」と迷う海徳先生を、「そっちにいかないでください!!」と無理やり引き戻すドタバタは素晴らしいとしか言いようがありません。「手塚賞」がジャンプに導入された時のやり取りなんかはもうニヤニヤが止まりませんでした。

日下氏は、「少年漫画にインテリジェンスなんて導入したら子ども読者を逃がすだけ」という思考で一貫しているんですよね。で、「俺のドラゴンボウル」が大人気なんで、彼としては何としてもそこを外したくない。あの手この手で海徳先生をおだてつつ、フラフラとインテリジェンスを追い始めようとする海徳先生を強引に引っ張り戻すわけです。


日下氏の、「「子どもっぽい」ことから逃げないでください!!」というのは、作中でもトップクラスの名言だと思います。


大体海徳先生、手塚治虫を意識するあまり、うっかりすると自作以上に手塚作品の方が気になっちゃうんですよね。一躍時の人となってしまった自作の人気に戸惑いつつ、むしろ「手塚治虫の凋落」という事象の方にショックを受ける海徳先生のキャラクターは、やはり今作最大の味です。俺のドラゴンボウル読みたい。


この辺、「少年漫画というフィールドでは手塚先生を凌いでしまった」海徳先生の戸惑いと葛藤、あと日下氏とのやり取りや日下氏の強引なフォローや路線誘導が、チェイサー5巻のハイライトであることは論を俟たないでしょう。日下氏という、一本筋の通った考え方というか、物差しが提示されるからこそ、海徳先生の葛藤や逡巡が余計に際立つんですよね。


で、5巻も終盤、「俺のドラゴンボウル」の人気にも陰りが見えてきた頃。手塚治虫はすっかり少年漫画業界での立場を凋落させてしまい、どの雑誌も手塚漫画を載せたがらない、というところまで来てしまいます。本質的には単なる手塚ファンである海徳先生すら、「少年漫画で生き恥をさらさないで青年漫画に集中してくれ」と言うくらいです。

さすがに海徳先生も、ぼちぼち「少年漫画では俺の方が上」という自信を持った時に、こんな話が伝わってきます。

「手塚先生がチャンピオンで連載を始めるらしい」
「チャンピオンの編集長が、「手塚の死に水は俺がとる」と言っている」

はい、この辺が、伝記ものの一番面白いところですよね。我々は、この後、チャンピオンに何が載るのかを知っている。

そう、「ブラック・ジャック」がついにその姿を現すのです。


というところで、5巻はここまで。いやーー面白い。面白いですチェイサー。展開もさることながら、単行本の引きのタイミングも絶妙。

取りあえず皆さん、「チェイサー」はまだ5巻しか出てませんし、読んでない人はちょっと騙されたと思って読んでみませんか?手塚治虫先生の伝記として読んでも、海徳先生という漫画家の出世物語として読んでも、ドタバタ感がすげー楽しめますよ。






気が向いた方は是非どうぞ。画像つけたいから貼ってますが、別に上のリンクから買わなくていいんで。


今日書きたいことはそれくらいです。

posted by しんざき at 07:25 | Comment(1) | 書籍・漫画関連 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年12月08日

しんざきにとってラヴクラフト作品は何故怖くないのか


主語小さい記事です。

いや、twitterではネタとしてこういうこと書きましたけど、

実際には触手がどうとか触腕がどうとかって、多分枝葉の問題だと思うんですよ。

だって、ラヴクラフト作品で「触手」「触腕」みたいな描写が出てくる、というか「宇宙的怪異」がある程度直接描写される話ってごくごく一部ですもんね。多分、全体の2割あるかないかってところなんじゃないでしょうか?クトゥルフ神話全体だったらもっと一杯あるんですけどね。

これはどちらかというと「ホラー」というジャンルの受け取り方とか、楽しみ方の話なんですが。


私、ホラーの肝って、「踏み外させ方」だと思うんですよ。


つまり、「さっきまで日常だったのに、いつの間にか日常を踏み外していた」という、いってみれば浮遊感。あれなんかおかしいぞおかしいぞ、と思いながら読み進めて、どこかで「既に日常を踏み外して落下していた」という感覚。後から読み返して、「ここだったのか」と気づく戦慄。

少なくとも私が、ホラーを読んで「怖さ」を感じるところってそこなんですよね。

怖いホラーって、凄く「日常」を描くのが上手いと思うんですよ。ついさっきまで和気あいあいと、ごく普通の日常を送っていたのに、ある瞬間から異様な情景に、異様な世界になる。日常描写がリアルであればある程、それが「実は壊れていた」と気付く時の恐怖感が大きくなる。

いわば、日常風景でゲージ溜めて、そのゲージで一気に超必を撃つ、みたいな話なんだと思うんです。少なくとも私は、「日常ゲージ」がある程度溜まってないとあんまり怖くない。それも、「怖くなるぞ怖くなるぞさあ怖くなるぞ」っていう前振りがある怖さじゃなくって、「あれ、なんか変だな…日常の筈なのに…あれ?あれ?」ってなる方が怖い。

要するに、物語序盤からすぐ怖い話が始まったり、「怖くなるぞ」っていうタメが明確な作品ってあんまり怖くないんです。

で、そういう意味では、ラヴクラフト作品って「日常ゲージ溜め」はあまり行われないんですよね。勿論タイトルにもよるんですが、割と早い段階で「日常」は終わるし、場合によっては最初の時点で既に日常が終わっていたりする。「怪異の存在明示」が結構早いんです。

ただ、これは決して「ラヴクラフト作品がつまらない」という訳ではないということは念押しさせてください。私にとって、「ホラーとしての」ラヴクラフト作品はあまり怖くない、というだけの話であって、「宇宙的怪異」を描いているラヴクラフト作品は十分面白いですし、楽しめます。「時間からの影」とか「宇宙からの色」とか超面白い。

ただ、飽くまで「ホラーとして」の話であれば、「冷気」とか「家のなかの絵」なんかはかなり怖いと思います。ムニョス先生こわい。あと「神殿」も結構こわいかも。

ちなみに、以下は初心者の方におススメ出来るラヴクラフト作品の記事なんで、よかったら読んでみてください。面白いですよ。ラヴクラフト。たまにSAN値は削られますけど。





ところで、全然話が飛ぶんですが、私レイ・ブラッドベリの作品って大好きで。特に大好物なのが「何かが道をやってくる」と「10月はたそがれの国」の二作なんですけど。

ブラッドベリって、そもそも別にホラー作家ではなくって、時にはSFを、時にはファンタジーを書くっていう感じの、言ってみれば「幻想作家」なんですけど。

ただ、ブラッドベリの「踏み外させ方」って物凄いと思うんですよ。正直そこらのホラー小説よりよっぽど怖い。「あれ?あれ?日常の筈なのに…」からの浮遊感がすごーーーい上手いんです。

そういう意味で、上でも挙げた「10月はたそがれの国」と「何かが道をやってくる」は超お勧めです。よかったら一度読んでみてください。



「10月はたそがれの国」については以前書きました。その時も「踏み外させ方」の話をしました。



「何かが道をやってくる」についてはまたその内ちゃんと書こうと思います。


ということで、今日書きたいことはそれくらい。

posted by しんざき at 07:37 | Comment(3) | 書籍・漫画関連 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年10月25日

「足を引っ張る味方」の役割について、あるいはワールドトリガーすごいよねという話

こんなまとめを目撃しました。


物語における「トラブルメーカー」とか「足を引っ張る味方役」みたいなものを提起して、その存在についての好き嫌い、みたいな話ですね。これ自体は、最終的に好みの問題だと思うのでどうこういう話ではないのですが。


ただ、物語上の役割として「トラブルメーカー」「足を引っ張る味方役」について考えてみると、「展開に起伏がつけやすい」「「ピンチからの脱出」を演出する小道具として便利」ということは一般的に言えると思います。


何度か書いてるんですが、創作には、割と大きな面白さ配分として「まさか」と「さすが」の二つの気持ち良さというものがある、と私は思っています。「まさか」というのが、ピンチからの逆転とか、舐められている主人公が力を見せつけたり大成長して周囲をびっくりさせる、要は逆転の気持ち良さ。「さすが」というのが、最初から強いと認められているキャラクターが評価通りの活躍をする、要は信頼の気持ち良さ。

で、今回は特に「まさか」の話なんですけど。

物語上で「まさか」を演出する為には、「味方の立ち位置を下げる」ないし「敵の立ち位置を上げる」ことのどちらかが必要になります。「逆転させるんなら、まずどっちかが有利/不利にならないとダメじゃん!」という話。当たり前のことですよね。この立ち位置というのは、元々の強さだったり、展開上の有利不利であったり、とにかく物語上の「その時点の有利さ」だと思ってください。

この「立ち位置の上げ下げ」をどれくらい説得力を持って行うか、というのは、その作者さんの腕の見せ所です。ここで説得力がないと、そのお話は急に嘘くさくなってしまいます。「頭脳戦の筈なのに敵がバカ過ぎ」って言われちゃったり、「展開が都合良すぎ」とか言われちゃうお話は、ここで「立ち位置の上げ下げ」を上手く行えていない、と考えることが出来ると思います。

で、この時、「立ち位置を下げる手段」のパターンって色々あるんですけれど、その時「足を引っ張る味方」「トラブルメーカー」って、お話の構成上凄い便利なんですよ。

勿論お話には色んなパターンがあるんですけれど、

・そのキャラクターのフォローや反発という形で、ごく自然に他のキャラの評価を上げることが出来る
・相対的に他のキャラクターの有能さ・頭の良さを強調することが出来る
・キャラクターの個性づけを強調することが出来る
・場合によってはそのキャラを排除、ないし何等かのマイナスを付与する(そのキャラがひどい目にあうとか)ことで読者の溜飲を下げることが出来る
・「敵を有利にする」要素だけに頼らずに済む

この辺りはぱぱっと挙げることが出来ます。例えば、「頑迷で物分かりの悪い味方の無能上司」みたいなキャラだったら、そのキャラを手ひどくやりこめることで味方キャラの株を上げる、とか。「味方の中の、力自慢だけど頭は悪い」みたいなキャラだったら、ピンチを作った上で戦闘で活躍させることで挽回させる、とか。

あと、結構大きなところで「頭がいいキャラを作る為には、頭が悪いキャラとの対比がないと難しい」という問題がありまして。相対的な頭の良さを演出する為に、敢えて頭が悪いキャラを出す、というのはよくある手段です。


まあ、勿論描写の良い悪い好き嫌いはあると思うんですけど、「足を引っ張る味方」というのは、ストーリーテリング上ではとても便利な存在なんだよ、というのは言えると思います。


ところで。

いきなり話がものすっごい飛ぶんですけど、ワールドトリガー、みなさんご存知ですか?面白いですよねワートリ。葦原先生がご快復して続きを描いて頂けるのを心待ちにしております。


以前、ワールドトリガーについてはこんなことを書きました。


で、このワールドトリガーを読んで、もう一つ凄いなーと思ったのが、この漫画「足を引っ張る味方」とか「立ち位置を下げる為に、敢えて無能描写されてるキャラ」というのが、本当に殆どいないんですね。いや、勿論やられ役的なキャラはいないこともないんですが、いかにもトラブルメーカーとか、いかにも無能そうなキャラっていうのが、いない。話が通じないキャラがいない。


例えばボーダーで言うと、ボーダー内の人たちって皆基本凄い「ちゃんと仕事をしている人たち」ばっかりで、わざわざ足を引っ張るような「イヤなキャラ」というのが本当にぜんっぜんいないんですよ。

時には主役勢と敵対することもあるけれど、ちゃんと話も通じるし交渉も出来るし、必要に応じて柔軟な姿勢も見せるボーダー上層部とか。鬼怒田さんなんか、最初は「頑迷キャラかな?」と思わせておいて、実はぜんっぜん有能なキャラでしたしね。

誰もかれも、戦況を的確に判断して、きちんと押し・引きが出来ているA級・B級上位隊員勢とか。

勿論ミスをしないわけではないけれど、一人ひとりがちゃんと自分の仕事をわきまえて行動しているC級・B級中位・下位隊員勢とか。新三バカですら、まあすごいちっこい部分ですけど仕事してるわけです。

「話が分からない」「自分の仕事をしていない」というキャラが、いない。強いて言うと太刀川チームの唯我なんてギャグキャラめいた感じですけれど、彼も別に物語の役割上では「足を引っ張る」キャラクターではなく、むしろ三雲を鍛えるのに協力する方のキャラクターですし。色々わがまま言うという点では香取さんとかちょっとトラブルメーカー寄りの描写でしたけど、それでもランク戦中はきちんと自分の仕事をして、最大限自分のチームの得点を取る為に最善の行動をしようとしてますしね。


これ、特にアフトの大規模侵攻の時の描写が顕著で、「敵も味方も全員、ちゃんと自分の仕事をしている」「誰も「足を引っ張る」ヤツがいない」「その上で、味方がちゃんと大ピンチになる」「その上で、ちゃんと逆転のカタルシスもある」という、よく考えると物凄いことをやってると思うんですよね。アフトクラトル側も、まあエネドラがちょっと暴走キャラですけど、ちゃんと「敵をひきつける」という仕事は遂行していて、ボーダーの指揮官まで引っ張りだしている。皆物凄い「有能な強敵」なんですよ。

「勝負」の描写をする時、「勝因と勝因のぶつかり合い」だけで逆転を描き切るのってかなり難しいんですよね。

勝因って、書くの結構難しいんです。現実でも、勝因のない勝利はあっても、敗因のない敗北はない、とか言いますしね。「どっちかが強かった」だけだと話は作りにくいし、逆転のカタルシスも演出しにくい。

どちらかというと、どちらかに明確な「敗因」があった方が、読者も分かりやすいし、勝敗に説得力をつけることも出来る。で、その「敗因」にも、無能な味方とか、トラブルメーカーのミスって本来便利に使えるんですけれど。

けれどワールドトリガーの、特に大規模侵攻戦って、「誰もミスらしいミスをしてない」んです。これ凄い。「敗因」がない。相手をひきつける役はひきつける役で、ちゃんと戦略上での得点を挙げてる。それでも、随所随所で相手の仕事を上回る仕事をするキャラクターがいて、結果として「ピンチからの逆転」で主役側が勝利を収めている。


こういう展開をきちんと描ける人って、そうざらにはいないんじゃないかと思います。


勿論、上で書いた通り「味方の足を引っ張るキャラ」って物語展開上は凄い有用な要素ですし、私自身はそんな嫌いでもないんで、「そういうキャラがいない方がいい」ってことは全然ないんです。いていいし、使われていい。

けれど、「そういうキャラが全くいない」上で「ちゃんとした逆転」を描いている、ワールドトリガーってのはつくづく凄い作品だなーと、ついベタ褒めしたくなった次第なわけです。

繰り返しになりますが、葦原先生の一刻も早いご快復を祈念しております。

今日書きたいことはそれくらいです。











posted by しんざき at 06:49 | Comment(10) | 書籍・漫画関連 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年09月19日

「映画大好きポンポさん」の感想と、「まさか」と「さすが」の同時並行バランス、という話

「映画大好きポンポさん」を買いました。


いや、実はPixivに掲載されていた版で既に読んでいたんですが、大変楽しませて頂きましたし、長男やしんざき奥様も好きかもなーと思って書籍版で買っておこうと思ったんです。相変わらず面白かったですし、長男も大変楽しく読んでおりました。「ブラドックが出てきてから特に面白かった!」だそうです。

で、長男とも話していて、この作品は「まさか」と「さすが」のバランスがとても素晴らしいなーと思ったので、ちょっとそれについて書いてみたくなりました。ネタバレが混じるのでお気をつけください。

私は、漫画や小説の面白さを考える時に、「まさか」と「さすが」の二つのカタルシスが結構重要だと考えていて、以前からちょくちょくこれについての話をしています。あ、カタルシスというのは、まあ「気持ち良さ」という程度に読み替えてください。

まずは定義の話をします。


1.「まさか」と「さすが」のカタルシス、とは。

「まさか」というのは、要は逆転の気持ち良さ。周囲から評価されていない、あるいは弱い立ち位置のキャラクターが、「まさか」と思えるような大活躍をしたり、素晴らしい成長振りを見せたり、強敵に大逆転勝利をしたり。今まで舐められていたキャラが周囲を瞠目させる、といった展開は、この「まさかのカタルシス」の定番の展開です。「弱いキャラが大逆転すると気持ちいいよね?」という話です。


一方、「さすが」というのは、要は信頼の気持ち良さ。最初から高い評価を受けている、あるいは強い立ち位置のキャラクターが、期待通りの、あるいは周囲を納得させるような活躍をした時の気持ち良さ。師匠系立ち位置のキャラが無双したり、周囲が「流石〇〇だ」とつぶやくような活躍をした時の気持ち良さがこちらです。「強いキャラが大活躍すると気持ちいいよね?」という話です。

この二つの使い方が上手い、あるいはバランスが良い漫画や小説には、読者を気持ちよくさせる瞬間がたくさん含まれています。特に少年漫画の名作は、大体がこの二つを巧みに使い分けている漫画ばかりだと私は考えています。

これを前提に、「映画大好きポンポさん」について考えてみましょう。


2.「映画大好きポンポさん」におけるキャラクターの立ち位置。

映画大好きポンポさんには、主役といって良さそうなキャラクターが多分2人います。

一人が、タイトルにもなっているポンポさん。彼女は、映画界の巨匠ペーターゼン(多分ウォルフガング・ペーターゼンから名前を取っているのでしょう)の孫娘で、幼少の頃からその薫陶を受け、映画に関する才能からコネクションからリーダーシップから、様々な物を受け継いでいます。彼女は、「泣かせ映画で観客を感動させるより、おバカ映画で感動させる方がかっこいい」という持論の持ち主で、B級映画に分類されるような映画を作ってはヒットさせる、映画製作の達人として描写されます。

もう一人が、ポンポさんの助手のジーンくん。彼は、子どもの頃から「映画の中だけが僕の世界だった」という映画マニアで、ポンポさんから「ダントツで眼に光がなかった」と言われる、まあ言ってしまえば卑屈で自己評価が低いキャラクターです。物語は、彼の才能の開花を軸として動きます。

他、ミスティアやナタリー、あるいはブラドックといったキャラも勿論メインキャラクターなのですが、まずはこの二人、非常に対照的な二人のキャラクターが「映画大好きポンポさん」の主役、といっても特に問題ないでしょう。


3.「映画大好きポンポさん」における「まさか」と「さすが」の配分。

で、みなさんお分かりかと思うんですが、この漫画において、ポンポさんは「さすが」のキャラクターであり、ジーンくんは「まさか」のキャラクターです。二人は、漫画における役割を完全に分割しています。

ポンポさんは、インタビュー冊子で作者さん自身が語っているように、言ってみれば「無敵」のキャラクターであって、作品世界においては最初から最後まで最強です。映画というフィールドにおいて、作る作品作る作品全てヒットし、真面目に脚本を書けばサクっと大作を完成させるポンポさん。彼女は、周囲からの評価通りの活躍を軽々と飛び越え、ナタリーやジーンくんといったキャラクターの救済までこなしてしまいます。この漫画におけるスーパーヒーローです。

一方のジーンくんは、物語開始当初、周囲からなんの評価も受けておらず、自己評価の低さもしばしば描写されます。彼は、ただ一人ポンポさんによって、「社会に居場所がない人間特有の追い詰められた目をしている」というところを買われ、クリエイターとしての潜在能力の大きさに期待されています。

そんなジーンくんの(漫画的な)見せ場が、以下の二か所であることは多分間違いないでしょう。

・「MARINE」の予告映像を作り、コルベット監督とポンポさんから評価された場面
・マーティン・ブラドックの指揮の経験についてすらすらと語り、ブラドックから感心される場面

これ、「映画マニアとしての彼の才能、知識がまさに周囲から認められた瞬間」であって、彼の人生が結実した場面であると同時に、「弱い主人公が周囲の評価を覆す大活躍をして、周囲に認められる」その瞬間でもあるんですよね。まさに、上記でいうところの「まさかのカタルシス」のお手本のようなシーンだと思います。そして最終的に、ジーンくんは彼の周囲だけではなく、映画界において大きく評価されることになる訳です。

ポンポさんが活躍すると、読者には「強いキャラクターが期待通り活躍する」さすがのカタルシスが提供されます。

ジーンくんが活躍すると、読者には「弱いキャラクターが周囲の評価を覆す大逆転をする」まさかのカタルシスが提供されます。

映画大好きポンポさんという漫画において、「まさか」と「さすが」のカタルシスは、キャラクターごとに完全に分断されています。これは例えば、ミスティアとナタリーの二人の関係でも(ポンポさんとジーンくん程明確ではないですが)言えることです。

「映画大好きポンポさん」は、勿論描写自体上手いし背景知識も深いしとても面白い訳ですが、少なくとも私が楽しめた理由の一番大きなところは、この「カタルシスの配分」だと思っています。

キャラクターの役割を分けることによって、「まさか」と「さすが」のカタルシスを同時並行で読者に感じさせる、この物語展開はとても上手いなーと。読んでいて気持ちいいなーと。そんな風に、勝手に感心した次第なのです。


ちなみに、キャラクターの役割が「まさか」と「さすが」で分割されている作品自体は他にもたくさんありまして、例えば初期の「はじめの一歩」なんかその典型だったと思います。鷹村が「さすが」のキャラクターで、一歩が「まさか」のキャラクターでしたよね。一歩が段々強くなってしまって、キャラクターの役割配分が途中から上手くいかなくなっちゃった感も多少あったりもするんですが。SLAM DANKとかアイシールドなんかもそんな感じ(「まさか」キャラと「さすが」キャラの分割同時描写)でしたかね?


「映画大好きポンポさん」の話に戻りますと、各キャラクターの好きな映画三作について、おまけ漫画で掘り下げられていたのも個人的に面白かったです。特にポンポさんが痛快。

私自身は、映画自体あんまり見てないんで好きな映画三作っていうと子猫物語とゴジラとゴーストバスターズ(初代)とかになっちゃいますが、好きなレトロゲーム三作なら色々書けるかも知れません。


まあなにはともあれ、映画大好きポンポさん面白いですよねーと。PIXIV発の漫画っていうのも盛り上がって欲しいなーと思ったんで、長々書かせて頂いた次第です。


今日書きたいことはそれくらいです。










posted by しんざき at 07:00 | Comment(1) | 書籍・漫画関連 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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