2025年02月02日

絶対に作中作から逃げない漫画家漫画、「モノクロのふたり」でやっていることが凄い

漫画家漫画の一番の鬼門って、「作中で描かれる漫画についてどう描写するか」だと思うんですよ。

例えば「主人公が天才漫画家」という設定であれば、その天才漫画家が描く漫画も天才的なものである必要があります。作中で主人公の漫画が人を感動させているのであれば、作中作の描写も「人を感動させる漫画」でないといけない。

ただ、当たり前の話ですが、作中キャラクターが現実に飛び出してきて漫画を描いてくれたりはしないので、実際に作中作を詳細に描写しようとすれば、作者さんが二倍、三倍頑張らないといけません。漫画家漫画本体のストーリーや描写を組み上げながら、作中作にもそれ相応のリソースを注ぐ。自分の漫画を「面白く」描きながら、作中で更に「面白い漫画」を形作る。

言うのは簡単ですが、すっごく大変ですよね?

だから、多くの「漫画家漫画」では、作中作は最低限にしか描写されませんし、作中作の凄さは「読んだ人の反応」という形で描写されることがもっぱらです。これは別に悪いことでもなんでもない、漫画を描くリソースが限られている以上はごくごく当然の手法だと思います。

ところで最近、「モノクロのふたり」という漫画がその辺のお約束をぶっちぎり始めています。


作者は松本陽介先生。以前、アイドル漫画である「その淑女は偶像となる」も連載されていた方ですね。

優れた絵の才能をもちつつも、生活の為に絵の道を諦めた主人公、不動花壱。
不動の職場の先輩で、社会人になってからもずっと漫画家になることを夢見続けていたが、夢に挫折しつつあった若葉紗織。

この二人が力を合わせて漫画を形作っていく、題材としては王道の「漫画家漫画」なのですが、

まず「モノクロのふたり」、作中漫画にかけているリソースがおかしい

「作中漫画の売りはどこで、構成の特徴はこうで、どういうところで読者を驚かせるのか」という、いわば「作中漫画の面白さの描写」から全く逃げない。

まず一話から三話まで、若葉の漫画にかける情熱を不動が知り、夢を諦めていた不動が再び筆を手に取るという、この「挫折からの復活」の展開だけでも十分熱いんですが、そこで「不動が背景を描くことによって、その瞬間から世界の情景が一変する」という、作中漫画の最大のポイントが、物凄い説得力を持って描かれるんですよ。

第三話、あの15ページ目の海の絵。「不動の絵の才能がこの一枚に込められている」ということが丸わかりの、ド迫力の背景。主人公に見える光景がその瞬間から切り替わったんだと、読者全てに伝わってくる一枚。

これ、この描写だけでも、作中で「絵の才能があり、人を感動させる描き手」が描いた絵である、ということで読者のハードルをガン上げしておいて、実際に、作中で、そのハードルを軽々飛び越えてみせるという、本当にこれだけで物凄いことをやってみせていると思うのですが。

最新の十二話・十三話では、更にその「ハードルの上げ方」と「飛び越え方」がド加速してきています。「マジか?」って感じ。

十話〜十二話では、師匠ポジションである薔薇園先生と若葉が、新作の「ネーム勝負」をします。どちらが面白いネームを描けるか、というネームバトルを、憧れの存在である薔薇園先生との間で若葉が繰り広げることになるんですね。

まずここから、「作中のネームは、どこがどう面白くて」「どこがどうダメなのか」という理由を、きっちりと、作中漫画のストーリーの詳細つきで、作中滅茶苦茶丁寧に説明しているんですよ。編集の田中さんが、当初ただのモブかと思っていたけど、実は滅茶苦茶漫画に知見がある上にいい人だった。「さり気ないプロ」の存在好き。

そして、若葉は本当に四苦八苦、様々な工夫を考え抜き、苦しみ抜きながらネームを完成させていくわけなんです。心折れかけた若葉がもう一度立ち上がり、そしてきっちりと「確かにこうすれば面白くなりそう」という納得感のあるネームを出してくる描写、ここも十分熱い。

まずこれだけでも、ただでさえ本編のストーリーや展開をくみ上げながら、更に作中作のストーリーやネームにもそれ相応の説得力を持たせるという、物凄く大変なことをやっていると思うんですが、

不動が更にその上をぶち込んできた。


見開き2ページ大ゴマによる背景描写と世界観説明

事前に、「そのコマの意味」「そのコマの重要性」「そのコマを描くのは何故難しいのか」「そのコマを読んで、読者に何を伝えたいのか」という、「難易度のポイント」を薔薇園先生に全て説明して、ハードルをガン上げしてからの、不動が提示する完璧な「答え」

ここまでハードルを上げて、しかもそれを作中で飛び越えてくるのか……!!!

「ここまで作中作から逃げない漫画を描けるのか」と、正直個人的にはかなり衝撃的でした。これ、ちょっと皆さんにも実際に読んでみていただきたいところです。いやホント、損はさせないので。

上記のような、「作中作から逃げない」というのがこの「モノクロのふたり」の最大のポイントだとは思うのですが、単に漫画家漫画として見ても、「挫折からの復活」という展開の熱さ(これは「その淑女は偶像となる」とも共通する点ですが)、好感が持てる不動のキャラクター、若葉が要所要所でみせる根性と「出来る先輩なのに意外とドジっ娘」という可愛さ、師匠ポジである薔薇園先生の存在感、モブなのにモブじゃなかった田中さんの味わいなどなど、面白い要素満載です。

あと、不動と若葉、どっちも「気配り出来る大人」で好感度が高すぎる。背景のネーム指定でも、「構図変えたい時はいつでも言ってね」とか書いてる若葉さんが可愛い(そして構図を変えることなどミリも考えない不動の熱さ)。

未読の方は是非読んでみていただきたいと思う次第なわけです。ジャンプラでもまだ一話〜三話読めますし!!(これが読めるようになってるの、分かってる人の仕事過ぎる)単行本もまだ一冊しか出てないので!!簡単についていけます!!






今日書きたいことはそれくらいです。

posted by しんざき at 10:37 | Comment(3) | TrackBack(0) | 書籍・漫画関連 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年10月27日

「モノクロのふたり」がめちゃめちゃ熱くて面白くて素晴らしいのでみんな読んでくれ

騙されたと思って取り急ぎ三話まで読んでみてください!


お時間はとらせません!まだ始まったばかりの作品なので!三話まででもすでに十分完成している、というか恐らく三話までが「お話の初期設定」だと思うんですが、きっと今読み始めれば絶対後から「あの時読み始めて良かった」と思っていただけるのではないかとビシバシ予感させるだけのパワーを持った作品なので!!

ということで、読んでいただいたという前提の上で書きなぐります。

画力も才能もあるのに現実の前に夢を諦めた主人公・不動と、そんな不動の絵を垣間見て非現実的な夢を抱き、その夢を諦めかけていたヒロイン・若葉の物語、と一言で言ってしまうとそんな感じなんですが、

・「無くした夢を取り戻す主人公」という構図がまず単純に熱い
・「自分の作品が誰かの心を動かす」というテーマが物語の初期設定に組み込まれており、それが三話までで完全に回収されている
・キャラクターの表情が滅茶苦茶良い、特に二話ラストの「「黒」で表現してみせろ」の不動の表情、これだけでぞくぞくっとする
・9年ぶりに絵に本気を出す不動が普通に滅茶苦茶かっこいいし「今まで力を隠していた主人公」的なカタルシスもあって素晴らしい
・まあ不動仕事もめちゃ出来るキャラなので単純に活躍を見てるだけで満足感
・海の背景の絵がとにかく圧倒的で、「絵うまーーーー!!!」ってなるし、不動の画力についての説得力が滅茶苦茶高い
・というか海の背景が良すぎる。「眩しい」にたどり着いた解釈も素晴らしい
・その不動の絵の良さにただ一人気付いていた若葉、という構図も良い
・若葉さんの台詞がところどころ手描きなのも、本人の暴走気味の感情がそのまま乗っている感じでとても良い
・けれど不動の元々のフィールドと漫画のフィールドは全然違うので伸びしろも全然ある、という描写も良い
・仕事は出来るけど私生活ではポンコツ感も出てくる若葉さんが可愛い
・仕事出来る女性がある側面ではポンコツなの良いよね…………
・その若葉さんとのラブコメ要素も垣間見えるのも良い、のだが、現状ラブコメは主体ではなく、むしろラブコメ前面でなく熱さ全振りの方が好みかも知れん……(ラブコメ要素があるならそれはそれでよい)、迷う
・不動も若葉さんもどっちもひたむきで相手のことをちゃんと考えられるキャラで好感度高い

ということで、三話までの時点で「もしかして現在のジャンプ+の連載陣の中でもトップクラスに面白いのでは……???」となりました。皆さん追いかけてみませんか!!

といいつつ、三話までですでに完成度凄く高いと思っていて、ここからどう展開していくのかがまだ読者としては予想出来ないところではあるのですが……とにかく続きに期待しまくりな感じです。

いやーー最近Web連載の漫画超面白いの多いなーと思っているんですが、ジャンプ+は特に面白い作品多いですよね。「バンオウ」は終わっちゃったけど、「ふつうの軽音部」も「株式会社マジルミエ」も「サチ録」も「幼稚園WARS」も「目の前の神様」も「半人前の恋人」も「BEAT&MOTION」も好き。あと、最近ルーキーから昇格した「限界OL霧切ギリ子」もかなりのお勧めです。

一旦以上です。




posted by しんざき at 01:38 | Comment(4) | TrackBack(0) | 書籍・漫画関連 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年04月30日

河野裕先生の「愛されてんだと自覚しな」がめちゃ面白かったです

長男がまた高校の図書室で借りてきて、「これは読んだ方がいい」と言われたので読んでみたら大変面白かったです。


テーマとしては「日本神話も絡んだ輪廻転生もの」と言ってしまってもいいのかも知れないのですが、展開されるストーリーは痛快な現代もので、「カレー屋でアルバイトをしている女性二人組の日常生活」からお話が始まり、その後あっちこっちに話が吹っ飛ぶ大騒動が始まります。

物語のキーになるのは「徒名草文通録」という一冊の古書であり、主人公である杏が同居人の祥子に「徒名草文通録を盗み出す」という依頼をするところから始まり、あれよあれよという間に平安過去から現在、人間から神様まで、色んなスケールで事件が波及していきます。

「階段島」と同様、河野裕先生の得意技なのかも知れないのですが、「一見すると大したことが起きていないように見えるのに、気が付くといつの間にか話がとんでもなく複雑に広がっており、最後は散らかった要素を隅々まで回収し切って終わる」という展開、要は「話の広げ方と畳み方」がとにかく物凄く上手いなーと。

読者が気付かないうちに物語の要点を大体提示されており、後から「ああ、これこういうことだったのか!!」をこれでもかこれでもかと叩きつけていくの、ストーリーテリングとして超ハイレベルな手法ではないでしょうか。

お話としては、基盤部分のシナリオの底堅い面白さを背景に、その上に乗っかっているキャラクターたちが誰も彼も大変魅力的で、「このキャラこんな風に動いてたのか……」というのを後から追っかけていくだけでも十分楽しい、ということも言えるかと思いました。



以下は若干のネタバレも混じる感想箇条書きです。未読の方はお気をつけください。一応大きなネタバレは避けますが、一応折りたたみます。



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posted by しんざき at 23:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | 書籍・漫画関連 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年10月20日

しんざきが最近読んでいるお勧め連載漫画三選

最近、面白い漫画がめっちゃ増えてますよね。

連載形式についても、「webと本誌の並行連載で、最新話については大体webで読める」というスタイルがほぼ確立されたように思いまして、正直今漫画読まないのもったいなさ過ぎなんじゃねえかと思う程なので、ちょっと最近しんざきがお気に入りの作品について軽く紹介させていただければと思います。



ここ最近だと一番好きな将棋漫画です。「300年間将棋を指し続けている吸血鬼」である月山元(つきやまはじめ)が、とある事情で竜王戦にチャレンジすることになった、という筋書き。
この作品、何が凄いって、特に「展開の緩急」「シリアスとギャグのバランシング」みたいなものが素晴らしいと思っていまして、非常に真面目な展開の中に突如、物凄い存在感でギャグがぶっこまれてくるんですよ。
例えば記事作成時点の最新話の40話、こちら「将棋界一の巨漢に似合わぬ豆腐メンタル」という非常にいい味出してる滝川八段と元の対戦なんですが、非常に緊迫感がある対戦の中で

「早指しでプレッシャーをかける作戦か……!?」「でもそういうの滝川には」
「ものすごく効いてしまう!!」

があまりにも面白すぎる。滝川さん、登場時点では「アマチュアを見下す頑迷なプロ」かと思わせておいて、実は物凄いビビリ屋で元の見た目だけでビビリ散らかしてしまうとか、もうキャラの作り方と見せ方自体が大変にうまいとしか言いようがないと考えるわけです。この後の「あっカレーたべます カレー好きです!」も大変良い。

作品の設定自体の話でも、元が「300年も指し続けているので棋力は凄い」「しかし、(自分に比べれば)僅かな時間で高みにたどり着くプロ棋士を尊敬している」「吸血鬼なので日中の行動にも問題がある」という、「強いけどアマチュア、かつ案外ミーハー」という元のキャラクターにとても説得力がある。元が「強いけどミーハー」なキャラであるからこそ、対戦相手のプロの描写も輝くし、決して相手に対するリスペクトを忘れないという好感にも結び付いていると思うのですよね。

ポンコツ吸血鬼ハンターのアンナさんとか、自称元の親友の隆ノ介お兄ちゃんとか、棋士以外のサブキャラ群もいい味を出しまくっています。将棋があまり分からない、という人にもほぼ問題なくお勧め出来る一作です。



こちらも最近お気に入りの一作。「真面目な青年教師である主人公の猫門(ねこかど)が、ある事情でメイドカフェ(正確にはコンセプトカフェ)を訪れ、そこで鶴子という少女と出会う」「鶴子は実は猫門の学校の生徒で、猫門は鶴子に弱みを握られたと勘違いしてしまう」という筋立て。

基本的には「すれ違い」というわりと古典的なテーマのラブコメなのですが、「優しくて真面目だけど非コミュ」という鶴子の描写が非常に丁寧で自然と好感が持て、すれ違い自体の味わいがとても良質。しかも最近は鶴子の先輩である「おとちゃん」がこれまたいい味を出してくれていまして、「一見鶴子をいびる悪役ポジションかと思いきや、実は良い先輩」という王道に突っ込んできてくれて大変可愛いと思う次第です。

とにかく「王道を外さない」という点で、期待した読み味が期待通りになぞられる、これまたお勧めの一作。



こちらは既にご存知の方も多いであろう有名作ではあるのですが、「最近面白さがハイパーブーストされてきたから離れてた人は読んでください!!」と強く考える次第です。

77話までのいわば「前編」では、「ビジネス論も絡む良質な魔法少女お仕事漫画」だったのですが、そこからの急展開で桜木カナが新たに魔法少女会社を興すことになり、カナの主人公展開が大加速。

しかも直近で出てきた「怪しい個人投資家」の蔵入さんが、最新話で「当初シビアで詰め詰めのキャラかと思いきや、突如尋常ではない面倒見の良さを発揮」という、新キャラとは思えない勢いでの作品への馴染みっぷりを見せつけておりまして、これはもう読まないともったいないとしか言いようがありません。「眼帯キザ……」ってさり気に傷ついてそうな様子とか、全員の礼服を選んであげてるところとか、当初からいい味出してたんですが「一見悪役だけど実は仕事が出来てフォローも出来る人」感で読者を釘付けにしています。好き過ぎる。

正直蔵入さんの登場でマジルミエが原稿連載作のトップ争いにのし上がってきたんじゃないか感すらありますので、追ってない方はぜひお読み
いただければと考える次第なのです。


全然関係ないけど、昔ジャンプルーキーに「DAMAISM」っていうけん玉フリーバトルの漫画が一話だけ載って、すげー面白いし漫画力高いと思ったんだけどその一話以降7年程音沙汰がないので、今でも続きを待ち続けていることを表明して結句としたいと思います。よろしくお願いします。

今日書きたいことはそれくらいです。
posted by しんざき at 17:52 | Comment(1) | TrackBack(0) | 書籍・漫画関連 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年04月18日

長男にお勧めしてもらった「階段島」シリーズが滅茶苦茶面白くって6冊まとめ買いを検討している

ご存じの方も多いかも知れないですが、新潮社さんの「階段島」シリーズのことです。


ちょっと、備忘的に走り書き。

長男が学校の図書館から「いなくなれ、群青」と続編である「その白さえ嘘だとしても」を借りてきて、「面白かったから読んでみたら?」と私にもお勧めしてくれました。

で、「いなくなれ、群青」から読んでみたらめちゃ面白くって、その勢いで「その白さえ嘘だとしても」も読んじゃいました。「いなくなれ、群青」の時点ですげーーー面白くって、しかも綺麗に終わってたのでこれ続編どういう展開にすんだと思ったんですが、続編も続編でとても綺麗だった。

・ややこしい主人公と真っすぐ過ぎるヒロインの対比
・きちんとつくられた謎要素
・回収の丁寧さと、回収された瞬間のカタルシス
・話は多層的で追いにくそうなものなのに読みやすくてすらすら頭に入ってくる
・堀さんがかわいい

大体これくらいのことを感じました。もうちょっとちゃんとした感想は残りの巻も読んでから書こうかなー。

なにはともあれ「ちょっと手に取ってめくってみたら面白そうだった」というだけでこういうシリーズを引き当てる、長男の見る目がしっかりしてるなーとは思いました。身内褒めで恐縮です。

一旦それくらいです。

posted by しんざき at 23:47 | Comment(0) | TrackBack(0) | 書籍・漫画関連 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年07月18日

ゆるキャン△劇場版を観ての簡単な感想

長男がふと「ゆるキャン△劇場版観てみたいな」と言いまして、折よく長女次女奥様がアイカツの映画を観に行くといっていたので、じゃあということで長男と二人で観てきました。


楽しかったし音楽めっちゃ良かったしごはん食べるシーンがひたすら飯テロでした。私蟹そこまで好きな方じゃないんだけど、今回は普通に蟹鍋が食べたくなりました。

ゆるキャン△って雰囲気が重要なコンテンツといいますか、人間関係の中にもゆったり流れる時間と景色、みたいなところをどう見せてくれるのかなーと思っていたのですが、そこがほぼ完璧に提示されていたのは素晴らしいなーと思いました。キャンプ場の景色とか、暗い中でテントから灯りが漏れているところとか、要所要所で描写される富士山とか、雪が降ってきてなでしこが空を見上げるシーンとか、そういう細かいシーンの見せ方がいちいち効果的で、「うわーこれゆるキャン△だわ……」ってなりながら見てました。この点は一切不満ありません。

あとサントラ欲しい。マジ欲しい。特にオープニング直後に流れてた笛メインの曲、あれなに?演奏したい。




以下はとりあえず雑感です。ネタバレも含まれるかもしれませんので、未見の方はご注意ください。

・映画に限らず、何かコンテンツを楽しむ時はまず「ピント合わせ」の作業が必要になると思う
・ピント合わせというのは、「このコンテンツはどこを楽しむコンテンツなのか」ということを腹落ちさせるための作業と言ってもよい
・今回、このピント合わせにちょっと時間がかかった
・時間設定が、そもそも「ゆるふわ女子高生キャンプ漫画」の10年くらいあとの時間軸、社会人になったなでしこたちを描くコンテンツだし、開始当初は仕事で苦労する凛とかも描写されるので、もうちょっとシビア寄り、現実的な障害を乗り越えていく苦労と達成感を楽しむコンテンツなのかなー、と思ったのです
・ただ、始まってみるとそこまでシビアではなく、出る人出る人みんないい人たちだし、障害に思えた部分もそこまでの苦労なく解決してしまう、一言で言ってしまうと「優しい世界」だった
・つまり、どちらかというといつも通りのゆるキャンノリ
・その点、「シビアさ」にピントを合わせていた自分の焦点が途中でボヤけてしまって、そこが元通りの「ゆるふわ」に戻ってくるまでにちょっとリードタイムが必要だった
・この「ピントが合わない時間」も楽しめるのが、映画観るの上手い人なんだと思う。私はどっちかというと映画観るの下手
・ただ、出てきた障害と、それに対峙する野クルメンバーの見せ方自体はとてもしっくり来たし好き
・お菓子を食べた後いちいちにっこりする凛がとても可愛い
・蟹鍋超うまそう
・凛の「無表情だけど実は感情豊か」という見せ方は本当うまいなーと
・なでしこは安定感凄いというか、高校時代のポジティブ体力おばけのなでしこそのまんまだった
・この「なでしこがなでしこのままで成立する」世界観がゆるキャン△世界観なんだろうなーと
・千明は、最初の「速攻山梨までタクシーを走らせるめちゃくちゃさ」と、「きちんと色んなところに了解を取りながら進める社会人っぽさ」がいまひとつピント合わなかったけど、あれは酔っているかどうかで変わるんだろうか
・あおいの小学校の話は、多分「変わらないゆるさの中にも流れるほろ苦い感じ」を味わうのが正しいと思うんだけど、これもどちらかというとちょっとピントズレ要因だった
・ただ、鳥羽先生とあおいが学校や生徒の話題で話が合っているのはすごーくほっこりした
・時々激嘘をつくあおいが教師になってるのは解釈一致
・恵那もほぼ違和感がなかったんだけど、こちらはなでしこと違って「恵那ならどんな世界観でもやっていける」的な違和感のなさ
・ランプを欲しがる女子高生を観てなでしこが昔を思い出すシーンは、これ絶対入ってくるだろうなーと思ったしめちゃしっくり来た
・鳥羽先生推しなのでもうちょっと出番が欲しかった気はする
・最後に凛のお爺ちゃんが出てきて〆る辺りは「分かっている」感がすごかった
・パンフレットにサーモン鍋のレシピ載ってたので満足

大体こんな感じでしょうか。

一方、長男はどこにポイントを置いて観ていたかというと「地名と交通手段」らしく、例えばあきるの行くならこういうルートかなーとか、地図がわかるシーンをもうちょっとゆっくり見たくって、パンフレットに地図がもうちょっと載っていればいいのに……とか言っていたので、本当楽しむポイントは人によって違うもんだなあと。子どもと一緒に映画観に行くの超楽しい。

なにはともあれ大変楽しめたですし、難しい題材をちゃんと映画に仕上げたスタッフさんの仕事は素晴らしいと思いました。

一旦以上です。








posted by しんざき at 12:19 | Comment(0) | TrackBack(0) | 書籍・漫画関連 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年04月10日

ウマ娘が流行っている今こそみんな「熱い競馬漫画」を読んでくれ

マジでくっそ熱いので読んでください。


「熱い競馬漫画」は、かつてweb漫画集積サイト「新都社」に連載されていた架空の馬たちが戦う競馬漫画でして、残念ながら更新停止状態のままGeocitiesがサービス終了してしまった為、上記はミラーサイトになります。作者のもょもとさんは2012年にTwitterで呟かれたのを最後にその後はお見掛け出来ず、残念ながら続きが読める可能性はかなり小さいと言わざるを得ません。

ただですね、それでも、それでもこの漫画、個人的には数あるWeb連載漫画の中でもかなり抜けて面白いと思っておりまして、こと「競馬の熱さを群像劇形式で伝える」という点ではアマチュア離れした表現力を振るっておられるのです。

最初の方こそ若干読みにくいかなー?と感じる部分がないではないのですが、作者さんの画力も構成力も途中から物凄いレベル上昇を見せ、10話・11話のダービー編辺りからはもう完全に同人漫画の範疇を突破します。取り敢えず騙されたと思って日本ダービーの14話までだけでも読んでみてください。続きが読みたくなること請け合いです。

この漫画、名目上は近藤冬彦ことフユが主人公なんですが、ちょくちょくフユから他キャラクター視点に遷移して、「主人公とは全然関係ないところでの人間関係」が構築されていくんですよね。けれどそれがちゃんとわかりやすくって、最終的には主人公との絡みも発生して、物語の展開を織り上げていく。この「群像劇」の構成力、本当物凄いと思います。ジャパンカップ辺りの展開、サンデー辺りに連載されてても驚かない。

個人的には、ダービーの熱さも勿論なんですが、ジャパンカップにおけるタッチカムカムとモンデューの決戦がもう鳥肌立てずには読めないレベルでして、日本勢のタッチカムカムへの思い、海老原を敵視していながら最後は思わず海老原に警戒を呼び掛けてしまう芝原、冬とソフィーの心の交流、そしてもちろんカムカムとモンデューの一騎打ちと、もう熱すぎて死ぬレベルの熱い描写三昧です。主人公あんまり関係なくてもこれだけ熱いの本当凄い。

クオリティとフユの物語も「ついにこれから…!」というところで止まってしまっているのが本当に惜しい…。令和の奇跡が起こって更新再開されないかなあ…とか淡い期待を抱いてしまうんですが、まあなにはともあれ面白さは保証しますので、良かったら是非。


posted by しんざき at 20:02 | Comment(1) | 書籍・漫画関連 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年11月16日

映画すみっコぐらしは、恐ろしい程SNS時代に最適化した映画だったような気がする(ネタバレなし、ほのめかしあり)

長女、次女が観たがったので観にいってきました。



いやその、実をいうとこの記事、どう書くかかなり迷ったんです。

大抵の映画は、「ハードルが低い方が結果的に楽しめた」というパターンが多いであろうことは間違いなく、勿論この映画でも、ハードルが上がり過ぎて楽しめなかった」という人はいるでしょう。もとよりそれ程長い映画でもなく、どちらかというと肩の力を抜いて観て、結果的に「思ったより面白かった」という楽しみ方をすることが、恐らく本来の楽しみ方なんでしょう。

ただ、私は、この映画を観ながら、ちょっとそこかしこで思ったんです。

「あ、これ、スタッフさんは多分「分かって」やっているんじゃないかな」と。

つまり、コンテンツにはもう一つの楽しみ方が、「答え合わせ」の楽しみ方があると。

ある程度内容のほのめかしを受け止めて、その上で映画を観た時、「あ、これはそういうことだったのか」と後から納得する、そんな楽しみ方があると。

そういう意味ではむしろ、webやSNSでほのめかしを受けて、「中途半端にハードルが上がった状態」こそが、実はこの映画を楽しむ上で一番適切な状態なんじゃないか、と。

なので書くことにしました。言ってしまえば、この記事はほのめかし記事です。事前にご了承下さい。


まず前提として、映画すみっコぐらしは徹頭徹尾子ども向け映画です。ここは間違いありませんし、そこから映画の枠組みが外れることは一切ありません。うちの長女次女もそうなんですが、多分この映画、子どもはごくごく素直に、ゆるふわキャラクターのゆるふわドタバタ劇を楽しんで、時には笑って、時には感動出来ると思うんですよ。まず、子ども向け映画としては、完全に「すみっコぐらし」のキャラクターに期待される内容を必要十分満たしていると思うんです。

皆さん予告編動画観て頂けば分かる通り、この映画において、すみっコたちが直接喋ることは一切ありません。いつも通り、すみっコたちはゆるふわな容姿でゆるふわな行動をし、そこに最低限、二人の声優さんのナレーションが入ります。基本的には「絵本の世界に入り込んだすみっコたちのドタバタ劇」として映画が進むんですが、大筋すみっコたちの行動についてナレーションで補足するのが男性声優の井ノ原快彦さん、絵本の筋書についてナレーションするのが女性声優の本上まなみさんだと考えていいでしょう。

映画館でも、うちの長女次女だけではなく、たくさんの子どもたちが笑ったり、すみっコたちの行動に突っ込みを入れたりしていました。大筋、すみっコぐらしが好きなお子さんなら、まあ7割方はこの映画、楽しめるんじゃないでしょうか。で、深読みをしない普通の親御さんも、そんな子ども達を見てニコニコと楽しめるんじゃないかと思うんです。確かに私も、半分はこの楽しみ方をしました。


ただこの映画、恐らく「すみっコ好きの子ども」「その親御さん」以外にもう一つ、ターゲット層を設定しています。

それは一言でいうと「考察好きのオタク」です。恐らく間違いありません。でなければ劇中わざわざあんな描写は入れません。

いや、恐らく、「子ども向け映画なのに深読みしようと思えば深読み出来る」という作り方を、多分この映画、意図的にしてると思うんですよ。皆さんも、多分twitterやらなにやらで「実質Fate」だの「子ども向け映画の皮をかぶったガチ映画」だの、色んな評判を耳にしていると思うんですが、安心してください。それ言ってるの多分全員深読みしまくりの考察厨です。私自身考察厨のカテゴリーに入ると思うんですが、正直よりによってすみっコぐらしでこの展開やんのかと思ったことは確かです。

ということなので、この映画には、実は色んな「ほのめかし」要素が隠されていまして、その点恐らく、その内容にノれるかどうかはともかく、最後まで観て頂いた時、「ああ、あいつらはこれを見てこういうことを言っていたのか」と納得する、という楽しみ方はしていただけるんじゃないかと思うんですよ。だから、多分これ、狙ってSNS映えする展開を入れているんじゃないかなあ、と思った次第なんです。

取り急ぎ、私がこの映画について幾つかほのめかしワードを伝達するとすれば、

・実質SCP
・展開のスプラッシュマウンテン
・全てがぺんぎん?に収束する
・でも大体おばけのせい
・あとBGMがとても良い

くらいになるのではないかと思います。あと、全然関係ないけどたぴおかがいちいちいい仕事してる。

取り急ぎ、上映時間的にも恐らくお手軽に観られる感じにはなっているかと思いますし、お子さんがすみっコ好きだったら観にいってもまあ損はないんじゃないかな、とまでは言っても問題ないかと思いますので、皆さんお気が向かれたら是非どうぞ。


今日書きたいことはそれくらいです。







posted by しんざき at 19:33 | Comment(1) | 書籍・漫画関連 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年09月26日

「峠鬼」の東宮が歴史上の人物で言うと誰なのか、及び作中の年代について考察してみた

承前。


峠鬼は大変面白いですし、実は日本史好きにもかなりお勧めですし、妙がめちゃ可愛いので皆読むといいです。



それはそうと、なんとなく記憶頼りで「多分これ壬申の乱のことだろうなー」と思っていたものの、ちゃんと確認していなかったことについて確認したので自分用メモとして書こうと思います。ネタバレに該当する部分もあるかも知れませんのでご注意下さい。

峠鬼では、作中に「東宮」という人物が登場します。小角の友人であって、岡本宮に居住していることが示されています。

東宮.png

東宮というのは皇太子の御所のこと、同時に皇太子自身のことも示す呼び方ですので、この人物は皇太子の一人であることが示唆されています。ちなみに歴史上の小角の生年・没年は「続日本紀」から読み取れる634年〜701年ですので、飛鳥時代の皇太子の内の誰かである筈です。

この他この人物について分かることとしては、

・出家しており、まだ還俗していない
・「近江の新都」という言葉がある
・東宮の台詞に「兄上と共に近江へ行ったものもいる」という台詞がある
・作中の時間軸で言うと未来の小角の台詞に「東宮が近江へ攻めあがる際に」という台詞がある

というようなものがあります。

で、飛鳥時代の「近江の新都」というと当然近江大津宮だと考えられます。手近な資料ということでWikipediaを引きましょう。


近江大津宮は、天智天皇が飛鳥宮から遷都した新しい都ですので、作中時代は天智天皇の治世であること、「新都」という言葉から遷都後それ程時間が経っていないことが強く示唆されます。ちなみに近江大津宮に遷都されたのは667年3月19日です。ただし、天智天皇は斉明天皇の崩御(661年)後しばらく即位しておらず、即位したのは668年です。

で、「東宮が近江へ攻めあがる」という言葉から、この後東宮が叛乱を起こすことが示唆されます。当然のこと、この時間軸で条件を満たす乱は一つしかありません。壬申の乱です。


壬申の乱は日本史上でも珍しい「反乱側が完勝してしまった戦い」なんですが、今でも様々不明な点がある乱であって、色々と面白いので是非書籍を読んでみて頂きたいのですが。個人的には倉本一宏氏の「壬申の乱」なんてお勧めです。解釈に際して賛否はあるものの、非常に細かく資料に当たられ、現地の観察に基づく記述も充実した名著です。


皆さんご存知の通り、壬申の乱は天智天皇の死後、皇弟であった大海人皇子が起こした乱であって、時系列で言うとこんな感じになります。尚、記載年代は太陽暦です。

671年11月:天智天皇が、自身の皇子である大友皇子を太政大臣とする。同時期、大海人皇子が大友皇子を皇太子に推挙し、出家する
672年1月:天智天皇崩御。大友皇子が天皇の後を継いで統治を始める(即位したかどうかは不明。弘文天皇は諡号)
672年7月:大海人皇子が挙兵
672年8月:大海人皇子が大勝し、大友皇子が自決
673年2月:大海人皇子、天武天皇として即位

ざっくりこんな流れです。大海人皇子は668年、天智天皇の即位時に東宮になっているので、「峠鬼」作中の描写とも矛盾しません。

ここから、「峠鬼」の東宮は歴史上の人物で言うと大海人皇子であり、イコール後の天武天皇であるということが分かるわけです。これが分かった上で峠鬼読むとまた色々、東宮の描写が面白い。「私もああした風習は古いと見ます」とか、天武天皇の治世とか考えると「あーーっ」てなります。

ちなみに、

東宮2.png

ここでいう「さらら」というのは、大海人皇子の妻でありかつ「うののさらら」という諱をもつ人物、つまり後の持統天皇であろうと推測出来ます。ひょこっとこんな名前が出てくるの超面白いですよね。

で、作中年代も、恐らく大海人皇子が出家した671年頃であろう、と推測は出来るのですが、これについては分からなかったこと、というかちゃんと確認出来ていない点がありまして、

・大海人皇子は出家後吉野離宮にいた筈
・ただ、小角は東宮に会った宮廷のことを「岡本宮」と呼んでいる
・これはおそらく後飛鳥岡本宮のことではないかと思われるのだが、吉野からは随分離れている
・また、大海人皇子が出家してから挙兵するまでの間には本来半年くらいしかタイムラグがないので、作中の描写にはちょっと短すぎる気もする

というくらいです。まあ、東宮が後飛鳥岡本宮に出向いていたとも考えられる(これは小角が「何故ここに!?」と驚いていることとも符合する)のでそんなに不思議ではないですが。額田王ゆかりの地でもありますしね。

時期的な話については、671年以前に大海人皇子が出家していたという解釈なのかも知れない。小角が「おぬし出家中の身では」と言っているということは、それなりに長い期間出家してそうですしね。

なので、この時期恐らく小角は30台中頃であろう、ということも推測できるわけです。しかしあれですね、当時次期天皇となる可能性もかなり高かったであろう大海人皇子と、令名があったとはいえ一介の道士である小角がタメ口で話せるというのも、作品上背景を色々妄想しちゃう要素ですね。

まあ、これらのことから考えると、作中世界において妙が皇后になるという未来もあり得たのかなーと思うと大変面白いですし、読者にこういう考察をさせたくなる峠鬼マジ面白いなーと改めて思うわけです。皆読んでください。

あと、上でも書きましたが壬申の乱については謎が多く、乱の原因についても皇位継承を争う戦だーという説もあれば持統天皇が首謀者だーという説、額田王(元々大海人皇子の妻であるが、天武天皇との間で三角関係があったという説がある)をめぐる確執だーとかいう説もあって色々面白いです。興味ある方は調べてみて頂けると。

更に余談なんですが、小角が言っている「道昭様」というのは、古代日本仏教史では極めて重要な僧である道昭さんですね。法相宗を日本に広めた方で、かの玄奘三蔵に師事した、というエピソードが著名です。

今日書きたいことはそれくらいです。





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2019年09月23日

「麻衣の虫ぐらし」がゆるふわ日常百合漫画かと見せておいて本気百合漫画だった

すいません、これも周回遅れの話かも知れないんですが、周回遅れはいつものことなので気にせず書かせて頂きます。

「麻衣の虫ぐらし」の2巻が出ていたので読みました。で、軽く衝撃を受けました。



その衝撃は、一言でいうと、「ゆるふわ農業日常 + 虫についてのうんちくメインのソフト百合漫画」かと思っていたら、あるタイミングから「虫の知識をアクセントにした本気百合漫画」へと怒涛の方向転換を見せたことへの衝撃です。なんというか、フライングバルセロナアタックを警戒してガードを固めていたらローリングイズナドロップを喰らったかのような、そんな衝撃を受けました。

まあ勿論雨がっぱ少女群先生の描く女の子は大変かわいいのですが、話はそれだけではありません。

「麻衣の虫ぐらし」は、少なくとも当初の漫画ジャンルとしては、「農業日常漫画」と言って良いと思います。主人公の桜乃麻衣(さくらのまい)は、入社一年目でリストラされて、ただいま求職中の女の子。友人の奈々子(通称奈々ちゃん)が祖父の跡を継いで営んでいるトマト畑をちょくちょく手伝いに来ています。

ここでは、「農作業の手伝いをする麻衣が色んな虫に出会って、それについて職業柄虫に詳しい奈々子が解説する」という展開が話のメインになります。三話まではニコニコで無料で読めるので読んでみてください。


お読み頂ければ分かる通り、奈々は「ちょっとヤンデレ入ってる、麻衣大好きな農業少女」であって、その奈々の虫知識とそれに対する麻衣の反応、及び奈々の好意に若干振り回されがちになる麻衣、というのが物語前半の定型パターンになります。地元の名士の娘である来夏も登場して、農業とそれにまつわるゆるふわ日常。ここまでなら、割とよくある、百合な雰囲気だけど実際にくっつくわけではない、あと非常に頻繁に入浴シーンが描写される、ほんわかした日常虫知識漫画と言っても大きく問題ないのではないかと思います。

で、ここからはちょっと作品のネタバレが入るので、軽く折りたたみさせて頂ければと思うんですが。





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posted by しんざき at 16:47 | Comment(0) | 書籍・漫画関連 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年09月12日

「峠鬼」における善の「同じなもんか」という台詞が大変にエモいという話

前回に引き続いて、峠鬼の話をさせていただきます。若干のネタバレが混じるので、出来れば2巻まで読んでから参照いただけると。いやマジで面白いですんで。峠鬼。まだ2巻までしか出ていないのも追い掛けやすくて大変高ポイントなわけでして。



前回もさらーっと紹介したんですが、峠鬼には「メインキャラ」と言ってよさそうな、主役格のキャラが三人います。

一人が妙(みよ)。大神への生贄にされそうだったところ、小角(おづの)に救われて、彼の弟子として共に旅をする道を選んだ少女です。根は真面目だけど行動力もあれば優しくもあり茶目っ気もあり、あと大変かわいい(かわいい)。

一人が役行者(えんのぎょうじゃ)こと小角(おづの)。複数の資料から実在が確認されている人物でして、続日本紀とか読んでみるとすげー面白いのでお勧めなんですが、近年の日本の創作でいうとやっぱ有名なのって宇宙皇子ですかね?宇宙皇子も今となっては古いのかな、南総里見八犬伝とかにも登場するんですけど。そういやメガテンにも出てたな。

この作品における小角は、まだ随分若く見えますし一見優男風なんですが、色んな人を救おうとする熱い男です。ただたまに大失敗もする。正直真白稗酒のエピソードについてはちょっとどうかと思いました。あれどういう導入だったら酒盛りに参加することになるんだ。

で、小角のもう一人の弟子、妙にとっては兄弟子にあたるのが、「善」な訳です。

で、この善、当初は「悪ぶっている少年」という風にも見え、結構妙にもぶっきらぼうというか、敵意を持って当たってくるわけです。

そんな彼の代表的なセリフの一つが、「同じなもんか」というセリフ。

善1.png

これ、妙の「同じお弟子でしょ」という台詞に対する反応なんですね。この時の善の感情は、いかにもな「不快」。後で分かることですが、「只人」に対してもとより警戒感と敵意を持っている彼にとって、妙からの「同じ」という言葉が非常に不快だったんですよね。なので、この時点では、それが妙個人に対する敵意として表れているわけです。

一方、この善の反応に対してろくにひるまないというか、うっかりするとそれ程気にもしていない妙も凄い。既に只者ではない。

妙4.png

「目と髪の色は違うけど…」気にするのそこだけかーーい!!というところも突っ込みどころとして優秀です。

この後も、多少憎まれ口は叩きつつも、善と仲良くなろうとする努力を止めない妙がいい子過ぎる。かわいい。

ところで、ここで多少ネタバレが入ってしまうんですが、この後妙は善と共にとある騒動に巻き込まれ、その際に善の正体と、彼の望み、彼の態度の理由を知ってしまう訳です。

この時の善の台詞が、

善2.png

この、「同じなもんか」という導入と全く同じ台詞を、こういう風に描写してくるのが本当に上手いなーと思うんですよね。この時の善の気持ちはどんなものでしょう。恐らく自嘲。自棄。そして、もしかすると羨望。自分がもっていない、自分にたどり着けないものを持っている妙に対する羨望。

ただ、妙が自分を傷つける「只人」と同じではない、ということも、間違いなく善は悟っていると思うんですよね。自分に対する慰めを必死に考えてくれる妙に対する感謝、というのも、恐らくは含まれているんだろうなーと。

そして、2巻。

いやこれ、本当に実際読んでみて頂きたいんですが、2巻でもすごーく色々なことが起きる訳なんですよね。さらっと表面的なことだけ書いてしまえば、「旅から外れて都に残ることになった妙が、やっぱり着いてくることになった」というそれだけなんですが、それに対する善の台詞が

善3.png

これ!!!!!!!

この笑顔!!!!!!!

なんだこのいい顔!!!!!!!

これが、やっぱり妙の「同じお弟子なんですから」という言葉に対する反応であることが、もう素晴らしい。本当に素晴らしい。

本来、善視点からするとほんの半日程度妙と離れていただけである筈なんですけど、この笑顔を見ていると、やっぱりどこか、それ以前に降り積もっていた時間みたいなものが、善の中には残っているんじゃないかなーという気がするんですよね。長い長い間、どこかで「夢だったらいいのにな」と思っていたものが晴れて、そして妙が今、目の前にいる。だからこそ、今まで散々ぶっきらぼうな仕草をしてきた善が、全てを振り捨ててこの笑顔を妙に見せているのではないかと、私はそんな風に感じたわけなんです。

善からすると、自分と妙はやっぱり違う。色んなところが決定的に違う。けれど、違うからこそ尊い。そんなメッセージがあるんじゃないかなーと。

というか、このシーンがあまりにもエンディング過ぎて、思わず「いいエンディングだった…」と思ってしまいそうになったんですけど峠鬼続き読みたい。幸いハルタでは既に続きが載っているらしいので何よりなわけです。ハルタも買おうかしら。

ということで、「同じなもんか」という一つの台詞が、三度に渡って善というキャラクターから発せられたことが、周辺の展開もあってもうただひたすらにエモくて素晴らしい、という話でした。皆峠鬼読んで下さい。

ちなみに善は、この少し前の「世話んなったな」のところの表情もめちゃ味わい深くていい感じなので単行本持ってる方は確認してみて頂けると。

あと完全に余談なんですが、念願の都について超はしゃいでいる妙がマジかわいい。

妙3.png

この後お姫様呼ばわりされてめちゃ嬉しそうなところ、善に止められているのも仲良さそうで大変微笑ましいです。その後、「ここに住みたいか?」の問答からの善と小角二人の表情も良い。まあ、後鬼様の「あれはない」という意見も良く分かるんですが。


更にぜんっぜん関係ないんですが、前回も描いた2巻の番外編、カシマ様とカトリ様が大変お気に入りなんですが、

カシマカトリ.png

この辺のショットもお二柱超仲良さそうで大好き。カトリ様のちょっとニヤっとした表情がめちゃいい。というかカトリ様のデザインマジ好き。見るからに雷神然としたカシマ様もいいんですが。

このお二柱、神話だとちょっと張り合ったりもしてるんですが、立ち位置からすると日本神話全体でも最強に近い筈で、そんなお二柱がいいコンビになってるの大変素敵ですよね。このお二柱にさらっと指示が出せる某女神様の造形も素晴らしいので再登場して欲しいです。

ちなみに、古事記と日本書紀を読むと多分この作品もっと楽しめると思いますので、そちらもお勧めです。ちょっと敷居高いとは思いますが現代語訳も出てます。



峠鬼面白いよね!!!!!!!!というだけの記事でした。よろしくお願いします。

今日書きたいことはそれくらいです。

posted by しんざき at 07:00 | Comment(1) | 書籍・漫画関連 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年09月08日

「峠鬼」がめちゃ面白いので皆買うといいと思います

試し読みから脊髄反射で買ってみたら大当たりでした。アンテナ低かった…8月に発売されてたなら発売後すぐ買うべきだった…



一話は無料で読めますので、取り敢えず騙されたと思って読んでみてください。一話の感じがお好きであれば、その先も大体いけるのではないかと思います。


いや、一話を読んでみて、「これ話の展開めっちゃ上手いな…」と思ったんですよ。作者の鶴淵けんじ先生は、実は今まで知らなかったんですが、スピンオフではない単体の作品としては、これが「meth・e・meth」に続いて二作目なんですかね?

まず、軽く作品紹介をさせていただきます。

飛鳥時代(おそらく)の日本。神代の空気が色濃く残っていた頃、人は未だ八百万の神々と寄り添って暮らしていました。

そんな中、舞台はとある村、ひとりの少女が神の生贄に選ばれるところから始まります。白羽の矢を立てられた少女の名は妙(みよ)。みなしごの妙は、その1年後、村の氏神である切風孫命神(きっぷうそんのみことのかみ)に捧げられる運命でした。

と、出だしは結構重ためな感じなんですが、実際の展開は予想以上に痛快です。

生贄が捧げられる神事の前日に村を訪れたのは、道士・役行者(えんのぎょうじゃ)とその供二人。これを端緒に、妙は自分でも思いもしなかった命運に巻き込まれていくことになります。

重要なことなので強調しておきますが、取り敢えずなによりかにより、主人公の妙がやたら可愛い

妙1.png

妙さん。この作者さんが描く女の子全体的にとても可愛いんですが、妙は表情も豊か、根は生真面目なのにお転婆なところもあれば心配性なところも仲間思いのところもあり、大変に好感が持てるキャラクターです。

妙2.png

この、「都へは行きますか?」の時の妙の表情とか超可愛い。

そして、飛鳥時代の道士といえば当然のこの方、役行者こと小角(おづぬ)。

小角.png

既にある程度の令名があるようなのでそれなりの年齢の筈ですが、この作品の小角様は割とお若いです。結構な男前に見えるんですが妙からの評価はあんまりよくない。というか、この作品における小角様は、勿論ヒーロー的な役割をこなすこともあるのですが、実際のところ結構抜けているところもあり、未熟なところもあれば思い悩むこともあり、一方困った人を見れば必ず手を差し伸べようとする、非常に人間臭くて熱いキャラクターです。

善.png

小角の弟子である善(ぜん)。彼も大変いい味を出しているキャラクターです。険がある目つき、荒っぽくてぶっきらぼうのように見える善ですが、その怪力やら能力やらを含めて、彼が何者であるのかの一端は第弐話で明かされます。

ちなみに、第壱話のメインキャラとしては他に「後鬼」という女性が出てくるのですが、この人の正体は壱話の作中でちゃんと明かされる上、その後の作品にもちゃんと絡んでくるので、まあまずは無料公開の壱話を読んでみてください。

「峠鬼」の展開は、基本的には「旅先での大神との接触、またその神器による騒動や怪異との顛末」をメインとして進みます。この時代、山とはすなわち「神」と同義であって、全ての山には神様がいたんですよね。

で、まず峠鬼の凄いところなんですが、このパワーバランスというか、ストーリー上の「神との接触」とそれの漫画的展開への落とし込みがとにかく絶妙

神様のお力は物凄いので、まあ基本的には、人間は神様の前に畏まり、その力に縋るしかない訳です。それは小角にしても善にしても同じであって、畏み畏みと神様の前に参るわけですが、時にはトラブルに巻き込まれ、時には神様の力をほんの少しだけ曲げて、ほんの少しの人を救おうとする。

この、「何でもヒロイックに解決するわけでもないけれど、かといって神様に縋るばかりでもない」っていうバランス感覚が、読んでいてとても気持ちいいんですよね。

この作品の神様って皆が皆妙に人間臭くって、重々しい神様もいれば、なんかやたらフレンドリーな神様も、何考えてんだかさっぱり分からない神様もいます。取り敢えず、小角に「お前ヒゲめっちゃ似合わんな?」とか言うアンインセキ様好き。「おぬしと言えどわし激おこも辞さんけど?」が名言過ぎる。

「旅先で出会う様々な怪異」と「日本的な世界観」という話で言うと、峠鬼のお話の構造はちょっと「蟲師」に似ているかも知れませんが、妙たちが出会う神様たちは蟲以上に危険であって、一方人間くさくもあります。人間くさい神様たちと彼らの周囲の人々を観察するのが、峠鬼の一つのメインコンテンツであることは間違いないでしょう。

で、その神器が引き起こす怪異と、それがお話に絡んでくる展開の収束具合が、また毎回毎回物凄い密度でまとまっているんですね。

無料公開範囲内なんでちょっとネタバレしてしまいますが、第壱話で言うと、僅か60ページ程の間に、舞台説明あり、妙と小角たちの出会いあり、妙と後鬼との触れ合いあり、切風孫命神様の登場からはもはや疾風怒濤の展開、SF的展開まで詰め込まれて、「こんだけの要素をどうやったらこのページ数にまとめられるんだ?」と圧倒されることしきりです。すごい漫画力(まんがぢから)だとしか言いようがありません。

ストーリー展開としては結構「なんでもあり」の部類に入るとは思いますし、やや凄惨な描写もところどころにはあるんですが、

・日本的怪異
・古代世界の旅
・土着の大神
・妙が可愛い

といった要素が気になった人にはまず適合すると思いますし、8月に1・2巻が同時発売されたばかりで大変追い掛けやすいと思いますので、是非手にとってみてはいかがでしょうと思う次第なのです。

というか、この漫画もっといろんな本屋さんで扱って欲しい。近所の本屋あちこち回ったのにどこにもなくて、最終的になんとか秋葉原で手に入れるというありさまでした。面白いんだから広めたいなーと考えるばかりなのです。あと早く続きが読みたい。

秋葉原で峠鬼買ってきたーー。地元の本屋どこも置いてなかった。。すげえ面白いのにもったいない

あと、全然余談なんですが、弐巻の最後には本編で出てくるとある神様を扱った番外編のような漫画が掲載されていまして、

クイナ1.png

ここで出てくるクイナがやたら可愛い上に非常にいい味を出している。「大変気持ち悪くあらせられるなって」も作中トップクラスの名言だと思います。

カトリ.png

あと、同じく番外編で出てくる、某超著名女神様のお供としていらっしゃったカシマ様とカトリ様、特にカトリ様がとても可愛くてこちらもいい味を出しておられると思います。小柄な女の子がやたらでかい剣もってる描写いいよね。なにせ神様だからリアリティを心配する必要も全くないぞ!!

というかこのお二柱、鹿島神社と香取神社の神様だとしたら、タケミカヅチ様とフツヌシノカミ様なんでしょうか。そういえば葦原中国平定で絡んでたな。


ということで、峠鬼のダイレクトマーケティングでした。よろしくお願いします。

今日書きたいことはそれくらいです。

posted by しんざき at 18:05 | Comment(3) | 書籍・漫画関連 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年05月13日

モザイク画を細部から見ていたような不思議な読後感、道満 晴明先生の「メランコリア」が面白かった

音楽仲間の@agneskeiさんにお勧めして頂いて、道満晴明先生の「メランコリア」を読みました。




最初に結論から言ってしまうととても面白かったですし、是非感想記事を書きたいなーと思ったのですが、一方で「この漫画の感想記事を書くのは、これはかなり難しいぞ」とも思ったのです。

ネタバレ厳禁という程のことではないのですが、世の中には「細かく説明してしまうと面白さが減衰してしまう可能性がある漫画」というものがありまして、恐らく「メランコリア」もそれに該当します。面白さが減衰しない程度に、凄くふわーーっと説明してしまうと「日常系のような、ファンタジーのような、不条理系のような不思議なSF漫画」ということになると思うのですが、これで「メランコリア」という漫画を理解して頂くことは著しく困難でしょう。

もう一歩だけ踏み込んで、メランコリアの構造をお伝えすると、「モザイク画をすぐ傍から見始めて、段々と視点を引いていくような漫画」と説明するのがかなり近しいと思います。読者は最初、ものすごーく細かい、短い場面場面を小さく切り取ったように見えるお話に触れていくことになります。ところが、それを読み進めていく内に段々と視点が引いていき、やがて「今まで見ていたものが、大きなモザイク画の一つ一つのピースだった」ことに気づくのです。

二冊しかないことですし、もしここまでの説明にご興味をお持ちになって、かつ表紙の感じが嫌いではない人には、この先を読まずにご一読されることをお勧めします。細かい内容には踏み込まないつもりですが、やっぱお話の構造くらいは感想として触れたいので。

ということで、以下は一応折りたたみます。


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posted by しんざき at 20:52 | Comment(0) | 書籍・漫画関連 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年03月11日

「ドラえもん のび太の月面探査記」は驚く程旧旧作大長編ドラえもんの文法に忠実な作品でした (ネタバレ感想あり)

見てきました。


いや、実は3/1から公開されていたということを完全に失念しておりまして、土曜ぽっかり予定が空いていたところ「何しようかねー」と子どもたちと相談していたら、ふと検索に引っかかったドラえもんが「もうやってるじゃん」ということに気づき、その日の内に観に行くことを決めた、という行き当たりばったり感なわけですが。

なんだか今回、脚本を辻村深月さんが担当されているということで、辻村深月さんの作品を愛読している奥様も楽しみにしていたようで。一家5人で、六本木のTOHOシネマズまで行って参りました。

結論から先に書きますと、映画は面白かったですし、大人も子どもも十分に楽しめる内容だったと思います。奥様と私の感想はというと、それぞれ

奥様「伏線が全てきっちり回収されていて満足感高い。満点」

しんざき「作品の展開全体が昔の大長編ドラえもんの文法に則っていて、昔からのドラファン向けのオマージュがこれでもかってくらい詰め込まれていてすごい」

でした。個人的には、子どもの頃に大長編ドラえもんをご覧になっていた大人、特に「大魔境」「海底奇岩城」辺りがお好きな人は、本作を見て損はしないのではないかと感じています。勿論子どもたちも大変楽しんだらしく、長女次女は翌日早速「ルナ・ルカごっこ」をやっていて、代わりばんこにルナ・ルカを担当していて楽しそうでした。


ということで、以下の記事では「本作のどの辺が「昔からの大長編ドラえもん」の文法に忠実なのか」という話をしたいのですが、話の性質上どうしても重要なネタバレを避けることが出来ませんので、本作未視聴、僅かでも視聴する可能性がある、という方には以下を読み進めることを非推奨とさせていただきます。良かったら映画館行ってから読んでください。

ということで、以下は折りたたみます。




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posted by しんざき at 07:13 | Comment(0) | 書籍・漫画関連 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年01月31日

「ワルキューレの降誕」のアイリーアさんが可愛いので皆さんにもお勧めします

そういえばつい先日、富士宏先生の「ワルキューレの降誕」「ワルキューレの栄光」がkindle化されたんですよ。みなさんもう買いました?





今更いちいち言うまでもなく、富士宏先生はナムコの超名作「ワルキューレの冒険」「ワルキューレの伝説」でキャラデザを担当された方であって、あの素晴らしすぎるワルキューレのデザインを生み出したご本人であるわけで、その富士宏先生自身の絵でワルキューレが活躍しまくるのはとてつもなく素晴らしいことである訳です。

「ワルキューレの栄光」は、FC版ワルキューレの冒険をベースに、富士宏先生の解釈で再構築された「時の鍵伝説」です。こちらはこちらで別途紹介したいのですが、今日は皆さんに、「ワルキューレの降誕」のアイリーアさんが可愛いという話を中心に、ついうっかりポチってしまう人が3人くらい出ることを目標にした記事をお届けしたいと思います。よろしくお願いします。

まず第一に、「ワルキューレの降誕」は、ファミコン版「ワルキューレの冒険」の、いわば前日譚に当たる物語です。

「冒険」において、ワルキューレは神の子として、悪の化身ゾウナを倒す為に旅立つわけなのですが、この「降誕」におけるワルキューレはまだ「見習い女神」とでもいうべき立場であって、何か特定の仕事をしているわけではありません。「若く元気な女神」「周囲はこの女神のいたずらを持て余していた」と語られるのみであって、快活でおてんばな彼女の姿が描写されます。


そんな時、天上界にある事件が起こります。槍の矛先のような形をした、謎の幻像が天上界の様々な浮島に突きつけるような形で出現したのです。

大女神は、その現象を調査するという任務を、いわば新米女神であったワルキューレに任じます。ワルキューレの初仕事というわけです。

まずは、このワルキューレの描写それ自体が、富士宏先生節全開で非常に素晴らしいことが、この「ワルキューレの降誕」の根幹であることは論を俟たないでしょう。

ワルキューレ2.png

富士宏先生が描き出すワルキューレは、「女神」という言葉ひとつで括れるような存在ではなく、快活で活発、やや猪突猛進気味でところどころ天然、しかし正義感と使命感にあふれた少女です。

彼女はちょくちょく失敗をすることもありますし、早とちりをすることもあれば大ボケをかますこともありますが、常に前向きでどんな苦境にも決して背中を見せません。

まだ女神として未熟であったこともあり、この物語におけるワルキューレは決して「完成された」キャラクターではありません。むしろ成長過程にある女神様です。

そんなワルキューレが、様々な試行錯誤や失敗を繰り返しながら、少しずつ謎の現象の根幹に迫っていくところが、まず一つこの「ワルキューレの降誕」の中核です。

warukyu01.png

ちなみに上の場面は、ワルキューレがちょうど大女神様から任務を授けられるところ。なんか猫口になっている大女神さまが可愛い。ちなみに、もう一人の黒髪の女神さまは即天宮の女神ヴィオレット。この人もとてもいい味出しています。

ワルキューレって元々、ファミコン版「冒険」では特定のセリフが用意されていなかったこともあり、プレイヤーが独自にそのキャラクターを想像したり妄想したりしていたんですよね。ファミコン版のパッケージでは凛とした姿を見せるのみだったワルキューレが、実は天然気味なお転婆猪突猛進女神さまだったというこの意外性は、富士宏先生がワルキューレの設定を公開された当初から、ワルキューレというキャラクターの大きな魅力の源泉で有り続けていたと思います。というか大女神様もですが、マーベルランドの神族の皆さんは割とみんな人間くさくて面白い。

ところで。

この「ワルキューレの降誕」は、単にワルキューレの成長と活躍を楽しむだけの漫画ではありません。地上界には地上界で、独自に謎の現象を調査しようという動きがあり、ワルキューレの物語は地上人たちの物語とも交錯することになります。

そこで登場するのが、後に「伝説」でプレイヤーキャラクターとして登場するクリノ、の二世代前にあたる「サンドラ」のマルマノ。そして、何の因果かマルマノとコンビを組んで謎を追うことになる、アファ大陸ドルツァ大学の新米教授、アイリーア・バルクさんです。

このアイリーアさんがめっちゃかわいい。

ワルキューレ1.png

画像右下が正統派眼鏡っこ教授、アイリーアさんです。なにこの照れ気味の笑顔可愛い。露出の欠片もない服装も素晴らしい。このアイリーアさん、富士宏先生一流の描写で、特に狙っている様子もないのに挙動がいちいちかわいらしく、初めてみる天上人であるワルキューレにミーハー感を丸出しにしたり、調査に夢中になって完全に他のことが見えなくなったりと、暴走気味の行動も非常にいい味出しています。「ワルキューレの降誕」自体をアイリーアさんの行動を観察する漫画と考えても良いと私は思います。

アイリーアさんは「天文学」と「古代学」を研究しており、その知識とやや空回り気味の努力をもって、マルマノと二人で謎の現象の核心に迫っていくことになります。

ちなみに、隣にいるサンドラが、村の都合で調査に派遣された、サンドランドの農夫マルマノです。マーベルランドではサンドラは特に珍しい存在でもないようで、大きな街でもごく自然に受け入れられている描写がほのぼのとしていて読んでいて気持ちいいです。

マルマノとアイリーアは、本当に成行上一緒に行動することになるだけなんですが、クールナに追っかけまわされたり崖から落っこちたりワープゾーンでぶっ飛ばされたり、コンビで色々と大変な目に遭います。友情という程ではなく、かといってただの協力関係という程薄くもない、この二人の微妙な距離感についても本作の見どころの一つだと言っていいでしょう。

このアイリーアとワルキューレ、お互い「新米」「目的にひたむき」「努力が空回りすることもある」「ちょくちょく失敗する」などなど、様々な共通点があるんですね。言ってみればアイリーアはワルキューレに続く二人目の主人公でして、その奔走と成長は、「降誕」のお話のもう一つのコア要素になります。

「ワルキューレの降誕」は、善かれ悪しかれ決してお話自体のスケールは大きくなく、「ひとつの事件」にまつわる話として展開し、収束します。

「迷楼館のチャナ」や「午後の国」でもそうですが、富士宏先生の描写ってとてもスマートで、見ようによってはあっさりしているので、物語のボリューム的にも決して重くはないんですね。人によっては物足りなさも感じるかも知れませんが、気軽に読める射程距離でもあるということですので、ご興味おありの方は是非。ゲーム版「ワルキューレの冒険」や「伝説」とご存知なくても特に支障ない作りですので、「ワルキューレやアイリーアが可愛い」というくらいの軽い動機でも一向に問題ないと思います。

取り急ぎ、今日書きたいことはそれくらいです。


posted by しんざき at 07:00 | Comment(0) | 書籍・漫画関連 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年12月19日

geocitiesのサービス停止によって大好きなWeb漫画の公開が停止される恐れがあるので作者様にご連絡したい

皆さん、「熱い競馬漫画」って読んだことありますか?読まれていない人で、web漫画に抵抗がない人であれば是非読んでみて頂きたいなーと思うんですが。


序盤こそやや絵が荒削りな感じもありますが、描写から構成からストーリー展開から、何から何まで超面白い。途中から絵もどんどんこなれていきます。

お話自体はタイトル通り「競馬漫画」であって、主人公であるフユとその愛馬ヴィップクオリティが活躍したりしなかったり、様々な競馬模様を中心に展開するのですが、そのお話作りは文字通り「群像劇」であって、フユと全然関係ないところでもお話は進むし、様々なライバル関係や熱い勝負が描写される訳です。

特にダービーとジャパンカップのストーリー描写については、完全にアマチュア離れしていると思います。これサンデー辺りに連載されてても全然不思議じゃない、って私思いましたもん。モンデューとタッチカムカムの一騎打ちと、そこに至る様々な選手の思惑の交錯が凄まじい完成度だと考えるわけです。

個人的には、これと「ニート様がみてる」を二大web漫画として推したいくらいの気持ちなんですが、残念ながら2012年時点で更新が途絶えてしまい、それ以降作者さんもwebに姿を見せていない状態が続いています。残念。超絶残念。

なんらかの奇跡が起きて更新が再開されないかと、今でも結構本気で待ち続けているんですが。

それはそうと、ジオシティーズは来年3月末にサービスが終了してしまいます。



いや、ジオシティーズ自体、日本のweb黎明期からwebのコンテンツをインフラ面から下支えしてきたサービスであって、これによって見えなくなってしまうコンテンツがどれだけあるかということを考えると、正直infoseekのサービス終了と同程度か下手するとそれ以上の大インパクトだと思いはするのですが、個人的にはもー一部の大好きなweb漫画が公開されなくなってしまうのがとても無念で。移転して下さっているところはまだいいのですが、熱い競馬漫画なんか、作者さんが今webをご覧になっていない可能性もあり、個人的に大痛恨事過ぎるわけです。

公開停止によって、微粒子レベルで存在した更新再開の希望が恐らく完全に潰えることもさることながら、この「熱い競馬漫画」というコンテンツが誰の目にも触れなくなってしまうのがとにかく悲しい。自分ひとりであればローカル保存で対応出来ないこともないんですが、出来ることなら皆さんの目に触れ続けていて欲しいコンテンツであるわけなんです。

作者のもょもとさんの現在のご状況がどうなのか、勿論知る由もないですが、もしご許可頂けるのであれば、なんなら移転作業全部やった上で管理権限お渡ししてもいい、くらいの勢いなんですが、どなたか連絡取れる方とかいらっしゃいませんか。一応Twitterで作者様アカウントにDMを投げてはみたんですが、正直2012年から停止しているTwitterを今ご覧になる確率がどれくらいあるのか、というのは大変心もとないところでして。。。

単に「熱い競馬漫画をwebに残したい」という一心の話ですので、どなたかご賛同、ご協力頂ける方がいたら何卒よろしくお願い致します。

それはそうと、上で書いた「ニート様がみてる」については先日作者様が移転してくださっていました。ぶち嬉しい。


こちらはこちらで、ギャグ漫画というかラブコメ調なんですが、「Vipper出身の男子高校生が女装して女子高にもぐりこんでドタバタする」というストーリーにピンとくる人でしたらまず気に入ると思いますので、是非ご一読頂ければと思う次第なのです。ちゃんと完結してます。

今日書きたいことはこれくらいです。

posted by しんざき at 12:23 | Comment(3) | 書籍・漫画関連 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年12月07日

影浦隊のゾエさんがあまりにも有能過ぎて辛い


前回に引き続いて、ワールドトリガーの話です。最新巻のネタバレが含まれますので、ワールドトリガー19巻を読んでいない方には非推奨の内容となっております。まだ読んでない人は読みましょう、19巻。超面白いので。あとワートリが移籍したジャンプSQも購読しましょう。



19巻を読んでいて、何より、他の何よりも改めて実感したのが、「ゾエさんが余りにも有能過ぎる」というその一点です。ゾエさん凄い。13巻の時点でも十分有能だったけど、今回のランク戦での有能さはゲージ振り切れてます。ボーダー全体で見てもトップ3に入る有能さなんじゃないか、と思わせるくらい有能です。

まず念のための確認なんですが、ゾエさんというのは影浦隊にいる北添尋さんの愛称です。ゾエさんは影浦隊のガンナーであって、ふくよかな体格、温和な人格、国近や当真よりはだいぶマシな成績、ウザい適当メテオラなどで著名なキャラクターです。

作中ゾエさんの主要な出番は、主に「ROUND4での戦闘」「ROUND6の解説」「カゲのお好み焼き屋さんでの食事」「ROUND7の戦闘」の4つになります。

ゾエさんがいかに凄いのかという話は、以下のような諸要素にまとめることが出来ます。

・見るからにアクが強いメンバーの中でムードメーカーを完璧に努めている
・ガンナー、戦闘員としての能力も非常に優秀
・かく乱役も連携してのフォロー役も出来るマルチロール機っぷり
・頭の回転が速く、咄嗟の戦術的対応に優れている
・ツッコミにも回れる

順番に行きます。



〇見るからにアクが強いメンバーの中でムードメーカー・バランサーを完璧に努めている

まずコレ。初手これだけで既に十分凄い。

いや、冷静に考えて、影浦隊の連中ってアク有り過ぎだと思うんですよ。個々人の仲が悪いかというと決してそういう訳ではなく、チーム内の仲はむしろ非常に良いとは思うのですが、仲良し同士でトラブルが起きないかというとそういう訳でもなく、仲良し同士でトラブルが起きた際にどうリカバリを試みるか、というのはスキルを必要とする問題です。

影浦は言うまでもなく非常に誤解を招きそうな素行・言動がデフォルトですし、ユズルも見るからに非コミュ非コミュしています。ヒカリも内面がどうあれ言動はあんな感じで相当荒っぽいべらんめえオペレーターなので、人間関係的にはかなりのリスクを孕んだ状態だということがまず言えます。正直なところ、この3人だけだと、人間関係がいつどんなタイミングで険悪なことになるか分かったもんじゃないと思います。

そこで、ただ一人で全体の人間関係のバランスをとっているのがゾエさんなわけです。ROUND4では、「なるべく粘って死ね!」だとか「頑張って逃げて」などというそんざいないじられ具合に対しても、「なんかゾエさんの犠牲軽くない?」などとさらっと受け流してユーモアに変えてしまいます。集団の中でのいじられ役を引き受け、しかもそれをコントロールして雰囲気をよくするって、既にその時点でただ事じゃないコミュニケーションスキルですよ。ヒカリや影浦の攻撃的な言動をゾエさんが一人で引き受けて交通整理している、という見方も出来ると思います。

自分のことをポイント呼ばわりした二宮相手でも「ですよねー」と笑顔を返せるゾエさん(その間に炸裂弾射出)、マジ人間が出来ている。出来まくっている。

直近のROUND7では、ダメージを受けた影浦に対して「大丈夫大丈夫、立て直そ立て直そ」など精神的なフォローを入れている他、SQに移ってからの描写でも影浦の心理的フォロー役に回っている描写が観られます。影浦がイライラした時の手綱を握れるの、ゾエさん以外にいないと思うんですよ、コレ。

いじられるばかりではなくツッコミやいじり役に回ることもあり、例えばお好み焼き屋の描写では、チカに対するユズルのスタンスをゆるく冷やかしたり、影浦の言動をちょいちょいフォローする描写も見られ、「ともすれば非コミュ非コミュしてくる影浦隊の人間関係を、殆ど一人で和ませている」様子が明らかになっています。正直、ゾエさんいなかったらチームとして成立してないと思うんですよ、影浦隊。

いじられ役からムードメーカー、心理的なフォロー役まで、およそチームビルドに必要そうな役割を一手に担っているゾエさん。まずこの時点で、ゾエさんのただものでなさを感じて頂けるでしょうか。



〇ガンナー、戦闘員としての能力も非常に優秀
〇かく乱役も連携してのフォロー役も出来るマルチロール機っぷり

元よりA級部隊でガンナーを張っていたわけなので当然と言えば当然なのですが、ゾエさんは戦闘員としての能力も非常に優秀です。

指標となるパラメーターでも、トリオン9、攻撃7、防御7と、メインとなるパラメーターが既に優秀。ROUND4でこそ、相手が相手だけに二宮と東さんの引き立て役という印象がついてしまっていたものの、炸裂弾で戦況を動かす役では十分なパワーを見せていました。

そして今回のROUND7では、シールドで影浦のフォローをしつつ、ガンナーとしての中距離戦で圧倒的な火力を見せつけています。鈴鳴の新戦法にこそ一旦退いたものの、中距離戦の戦力としては他に大きく水を空けていると考えて良いでしょう。

「適当メテオラ」という戦術自体が、回避性能がバカ高くて乱戦に強い影浦のチャンスメイク役として非常に優れているのはROUND4の描写でも分かる通りで、それに加えて「自分でも点を取ることが出来る」ガンナーという、フォローもかくらん役もポイントゲッターも全部出来るというマルチロールっぷり。下手なオールラウンダーよりもオールラウンドな戦いっぷりです。

また、作者評で「サイドエフェクトを除いた生身の戦闘力ではレイジと並ぶ2トップ」という話もありますので、大規模侵攻でレイジがやってたヒュースぶん殴りみたいなことをゾエさんも出来る可能性が高いわけです。凄いぞゾエさん強いぞゾエさん。

ということで、「コミュニケーション能力ばかりではなく、戦闘員としても十二分に強いゾエさん」というのが、19巻までの描写で確立されているという話なわけです。



〇頭の回転が速く、咄嗟の戦術的対応に優れている

ちなみに、戦闘だけではなく、頭の回転、戦術思考的なところでもゾエさんはただものではありません。

ROUND3で二宮に落とされる直前、最後にきっちりとメテオラのかく乱で仕事をしていることが皮切り。

ROUND6の実況解説では、都度都度戦況的なところで鋭い指摘を見せていたのがゾエさんです。ROUND6では王子隊が一番戦況を読んで動いていたわけですが、それについてもゾエさんは把握・指摘していて、「一番戦況を読んでるっぽい王子隊が一番落とされているのが皮肉」だとか、「わあ王子痛い、次はスナイパー落としにいくつもりだったろうに」というような、きちんと考えて動いている王子隊の動きを的確に捉えた解説が見られました。

それに加えて、ROUND7では咄嗟の対応・機転も冴え渡ります。照明のオンオフをコントロールしている太一をユズルが落とせないとみるや、即部屋の照明を壊して有利不利をなくす対応は、犬飼さんにも「地味に気が利いてる」「ゾエのこういうところ好きだなー」と評されています。地味どころかこの対応って鈴鳴の戦法に対処する為の唯一解に近いものでして、これをほぼタイムラグなしで思いついて実行出来る時点で、ゾエさんの頭の回転が物凄いと思うんですよ。

SQに移ってからの展開でも「そこまで考えていたのか」的な咄嗟の対応描写がありまして、とにかくこのラウンドではゾエさんの株が爆上がりです。

大筋、「追い詰められた状況」「カオスな状況」「対応時間に余裕がない状況」で、それでも最善、次善の選択肢をとることが出来ているというのが、ここまでの描写でわかるゾエさんの対応能力でして、突発状況がわんさか出てくるトリガー戦での対応能力も一級品と評して差し支えがないでしょう。



〇ツッコミにも回れる

「ほう…ハンピレー」「流石に反比例は知ってるよね?トーマくん」

の会話がめっちゃ好きなんですけど皆さんいかがですか。


ということで、長々と書いて参りました。
私が言いたいことを簡単にまとめると、

「影浦隊のゾエさんは下手するとボーダー全体を見渡しても屈指の有能さなのではないか」
「皆さんゾエさんのヤバさをもっと知るべきだと思います」
「本当にぜんっぜん関係ないけど実況してる結束夏凛さんが可愛いと思います」

の3点だけであって、他に言いたいことは特にない、ということを最後に申し上げておきます。

今日書きたいことはそれくらいです。

posted by しんざき at 06:45 | Comment(4) | 書籍・漫画関連 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年11月29日

浦沢直樹先生は風呂敷を畳めない訳じゃない、あまりにも「序盤力」が高過ぎるんだ

すいません大した話ではないんですが、某大風呂敷が云々という案件について「浦沢直樹か」というコメントが複数ついているのを見かけたので、ちょっと脊髄反射させて頂きます。

確かに、浦沢直樹先生の長編作品で、「話の締め方がちょっと肩透かし」という印象を受けることがないとは言いません。「あれ?これで終わっちゃうの?」と思うことがないとは言いません。直近だと、BILLY BATでは私も確かにそう思いました。ネタバレは避けますが、もうちょっと読みたかったなあというか、アレあの着地だったらあと2巻くらいかけて描写しても良かったんちゃう?と思ったことは否定出来ません。

ただ、少なくとも私の考えでは、それを「風呂敷の畳み方が下手」呼ばわりするのは、あまり公平だとは言えない。

何故かというと、そもそも浦沢直樹先生くらい「面白そうな風呂敷を広げることが出来る」漫画家はそうそう存在しない、と考えるからです。

そもそも、我々は何故、浦沢先生の長編作品を読んで「肩透かし」と感じるのでしょう?

その理由は明白であって、「序盤〜中盤にかけて膨らんだ期待感程には、終盤の展開が綺麗な着地を見せないから」です。

浦沢作品は、別に着地しない訳ではない。ゴールにたどり着かない訳でも、打ち切りによって唐突な終了を余儀なくされる訳でもないんです。全部ちゃんと終わってるんです。

ただ、序盤中盤で期待値が高くなり過ぎて、読者がその期待値を収束させられないだけ。Monsterも、20世紀少年も、ちょっとお話の性格は違いますがPlutoだってそうだったじゃありませんか?

期待を裏切られる為には、まず期待を膨らませなくてはいけません。普通の漫画では、まずそもそも、そこまで序盤〜中盤までで期待が膨らみません。「これどうなるのかな、どうなるのかな」というワクワク感が醸成されません。そこまで期待が膨らんでいなければ、ラストの展開が「普通」であったとしても、「肩透かし」「期待外れ」などと言われようもないわけです。

しかし、浦沢先生の長編漫画は、そのことごとくが「ラストが肩透かし」などと言われてしまう訳です。これ、「どんな長編を描いても、序盤・中盤で読者を物凄く引き込んでしまう」という訳であって、これ実は物凄いことをやってるんじゃないか?と思うんですよ。

浦沢直樹先生に対する私自身の評価は、


「面白そうな序盤・中盤を描く天才」


です。長編漫画において、ここまで外れなく、「面白そうな伏線」「先が気になる展開」をばらまいて、読者を夢中に出来る漫画家さんというのは、漫画界全体を見渡しても稀有なのではないかと思います。

そこから考えると、浦沢先生に対して「風呂敷をたたむのが下手」という評価を投げつけるのは必ずしも適当ではなく、「風呂敷を広げるの上手すぎ」「あまりにも高すぎる序盤・中盤力」という評価こそ正当なのではないか、と、少なくとも私は考える訳なんですよ。

ここ最近、ビッグコミックオリジナルでは浦沢先生の「夢印」が連載されている訳でして、先日までは何かよく分からないおっちゃんが誘拐してきた幼女に対して自分語りをしている漫画として認識していたところ、ちょうど最新号では大きく話が展開しそうな状況になっているわけです。夢印の今後を楽しみにすると共に、またワクワクする話を浦沢先生が描き出すことを期待すること大な訳です。

それはそうと、私自身が浦沢先生の漫画で一番好きなのは「パイナップルARMY」だったりします。アレ超面白くないですか?一つ一つの話が、浦沢先生の序盤中盤の構成力のまま突っ走り切るのですから面白くない訳がないんですが、主人公の豪士を始め、珍やらコーツやら、味があるキャラクター満載です。キートンもいいけど、パイナップルARMYっぽい短編集もまた読みたい。

あと、これも全然関係ないんですが、私の中で「終盤力最強」の漫画家は岩明均先生です。「七夕の国」とか「寄生獣」とか、何をどうすればあそこまで完璧な収束に出来るのか理解出来ない。七夕の国超面白いんで読んでない人は読んでみてください。


今日書きたいことはそれくらいです。

posted by しんざき at 07:00 | Comment(13) | 書籍・漫画関連 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年11月28日

ワートリの別役太一さんの仕事があまりにも物語上完璧過ぎて感動するしかない

正直別役太一さんのことを舐めてました。ここまで「出来る」キャラクターだとは思っていませんでした。マジでごめんなさい。

再開早々クオリティ高すぎて最の高であるワールドトリガーの話なんですが、完全に本誌で読んでいる人向きのネタバレアリ話でして、コミックを待っている方には以下記事を読むことを非推奨とさせて頂きます。早く出て欲しいですよね、19巻。マジ楽しみです。

ということで、以下は折り畳みます。





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posted by しんざき at 07:00 | Comment(3) | 書籍・漫画関連 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年10月16日

ドラゴンボールは何故「桃白白前」と「桃白白後」で分けて考えるべきなのか


ドラゴンボールの話です。多分既出テーマも色々含まれてると思うんですが、気にしないことにします。

世の中には、「開始当初の方向性が大きく変わってしまった漫画」というものがあります。割りと数多くあります。

「開始当初は〇〇漫画だったのに、段々と××漫画に」というフォーマットを使うと、例えば〇〇には「日常」とか「冒険」とか「活劇」とかいう言葉が入って、××には「バトル」という言葉が入る例が、例えばジャンプ漫画では比較的頻繁に見受けられます。ブリーチとか幽白とか遊戯王とか、皆さん多分色んな例を思い浮かべて頂けると思うんです。

これが悪いという訳では全然ありません。漫画の肝はまず何よりも「面白さ」であって、「面白い!!」と感じる読者をどれだけ作れるかが勝負です。そういう意味では、「面白い!」と感じる読者が多い方に路線変更するのはアリアリ大アリの手段であって、文句を言うようなところではない。現在「路線変更」が記憶に残っている漫画は、その殆どが「路線変更が結果的に成功した漫画」である、という事情もあるでしょう。路線変更自体は別に悪いことではない。

ただ、個人の好みからすると「路線変更前の方が好きだったなあ」というのが出てきてしまうのは仕方がないことであって、時には「1話完結型で、色んな事件を解決していく人情ドラマの幽白も読んでみたかったなあ」とか、「ハードボイルド路線のままであんまり下ネタとか入らないシティハンター読んでみたかったなあ」という人が出てくることも、それはそれで無理からぬことだと思うんです。



ところで、凄い個人的になんですが、私には「バトル展開にならなかったドラゴンボール」はそれはそれで絶対に面白かった筈だ、という確信があります。今ほど人気が出たかというと多分出なかったろうけど、それでも、絶対に面白かった筈だ。

勿論、今更言うまでもなく、ドラゴンボールはバトル漫画の金字塔であって、ありとあらゆるバトル漫画に影響を与えまくっているお化け漫画でもあります。「強敵に出会う」「修行して強くなる」「その強敵を倒す」という超克の物語がいかに面白いか、それをあのクオリティで描き出していることがいかに物凄いことか、もはや議論は不要かと思います。

ただ、それでも。ドラゴンボールにはあるターニングポイントがあって、その「ターニングポイント前」の話も私は好きだったなあ、あのままお話が進んでいてもきっと面白かっただろうなあ、と私は考えてしまうのです。

まず、「当初のお話」から始めましょう。

***

ドラゴンボールは、物語開始当初、間違いなく「悟空と周囲のギャップを中核とした冒険活劇コメディ」でした。これについては議論の必要がないと思います。

つまり、悟空という「ちびっちゃい少年」「しかし凄く強い」「常識がない」というキャラクター。彼が色んな人や色んな問題に関わっていく中で、周囲がそのギャップに驚く、瞠目する、大騒ぎになる。それが、物語当初のドラゴンボールの主要な展開だったのです。

例えば、車を見たことがなかった悟空が、怪力で車を壊す。鍵を知らない悟空がドアを壊す。見慣れない文明物に対して悟空が珍妙な感想を漏らす。この辺は、文明社会に対する異邦人が活躍する、いわゆる「異邦人もの」ジャンルではごく定番の展開です。悟空の強さは、異邦人展開を描写する為のツールのようなものでした。

ブルマという「(比較的)常識的なキャラクター」は、その為に存在しました。彼女は、物語当初、悟空という存在がどんなに型破りな存在なのかを、読者に実にスムーズに教えてくれました。時には悟空の常識のなさに振り回され、時にはその強さに驚き、一方で彼をドラゴンボール探しというストーリー展開に引き込んでいく。「西遊記」という物語を遠い下敷きにしたこの構造は、それだけで十分読み応えのあるストーリーだったといっていいでしょう。

では、言ってみれば「奇想天外な冒険活劇コメディ」だったストーリーが、「強敵との戦いと超克」の物語になったのはどこなのでしょう?


私自身は、そのターニングポイントを「桃白白戦だったのではないか」と考えています。


勿論、桃白白戦の前に修行とバトル展開がなかったのかというと、そんなことはありません。悟空はヤムチャと戦いましたし、亀仙人の元で修行して天下一武闘会に参加しましたし、レッドリボン軍とカチ合ってホワイト将軍やブルー将軍と戦いました。

けれど、少なくとも私が考える限りでは、最初の天下一武闘会周辺の展開は、まだ「冒険活劇」の一部だったと思うんですよ。

例えば、天下一武闘会では、当初悟空の小ささを甘く見る相手が複数出てきます。予選の相手もそうだし、ギランもそうだし、なんならナムだってそうです。

レッドリボン軍編は、「小さな少年が武装マフィアを叩きのめす」という展開における「まさか」の爽快感こそが肝であって、そういう意味ではそのまんま、1巻や2巻の展開の延長です。マッスルタワーの1階や2階の展開なんて丸々「まさか」のカタルシス展開ですし、ムラサキ曹長との闘いはコメディ色の強いものでした。ホワイト将軍自身は、ガチンコだと全く悟空との勝負にはなりません。ブルー将軍との戦いも、どちらかというと絡め手と正攻法のせめぎ合いという感じでした。

何よりも、桃白白戦以前は、悟空には「超克の対象」がいなかった。

ジャッキー・チュンとの戦いは、強敵との超克というよりは痛み分け惜敗という感じで、負けてどうなるという戦いでもありませんでした。ピラフ一味にしても、ブルー将軍にしてもホワイト将軍にしても、どちらかというと「巻き込まれた先にあった障害」であって、そもそも「打倒しなくてはならない強敵」という位置づけではなかったのです。

それに対して、

・劇中初めて悟空が完敗する
・悟空がカリン塔で修行する
・修行して強くなった悟空が桃白白を圧倒する

という、いわば「修行と超克」のモデルケースともいえる展開を初めて読者の前に提示したのが、他ならぬ桃白白戦だった訳です。

この、「強敵が現われる→修行して力を蓄える、レベルアップする→激戦の末強敵を倒す」という展開は、その後何度となくドラゴンボールの劇中に出現することになります。

この後、直後のレッドリボン軍本拠地戦ではまだ多少のコメディ色があったものの(エレベーターを使わないで頭突きで上の階に上がる悟空とか)、その後の占いババ編、22回の天下一武闘会、ピッコロ編と、お話は徐々にコメディ活劇色を薄くしていき、連綿と続くバトル展開が始まったことを考えると、

「桃白白以前」と「桃白白以後」でははっきりとお話の性格が変わっている

ということは、かなり明確に言えると思うんです。

勿論私は、「桃白白以後」のドラゴンボールも好きです。ピッコロ戦も、サイヤ人編も、フリーザ戦も、その後の諸々も、それぞれに素晴らしいドラゴンボールだったと思います。

一方で、「桃白白以前」のドラゴンボール、悟空が非常識な存在のままであって、周囲が悟空の行動や強さに驚愕していた、あの「冒険活劇コメディ」も、それはそれで素晴らしいドラゴンボールだったと思うんですよね。なんならあの後、ドラゴンボールを集めてボラを生き返らせた後、元の展開に戻ってまた気ままにブルマたちと旅を続けるドラゴンボールも、もしかするとあり得たかも知れない漫画として、間違いなく面白かったんじゃないかと。

私はそんな風に考えているのです。

ちなみに、全然余談なんですが、桃白白さんは「初めて悟空に完勝した」「かめはめ波以外の光線技を披露した」「悟空の超克の対象になった」「その後のバトル展開のターニングポイントになった」ということのみならず、第23回天下一武闘会では「悟空陣営がどれくらい強くなったかの物差しになった」という役割まで担っており、ドラゴンボールの物語全般においても滅茶苦茶な重要キャラクターです。ただ自分で投げた柱に乗って飛んでいるだけが桃白白さんではない。皆さん桃白白さんのヤバさをもっと知るべきだと思います。

もう一つ余談として、この記事自体は「ドラゴンボールを先輩に勧められて読んでみたけど面白くなかった」という記事を読んで思いついたものなんですが、面白かった面白くなかったは完全無欠に人それぞれであって、他人がケチをつけることでは一切ないと思うので、当該の記事に関して言いたいことは特にありません。楽しめなくて残念でしたね、だけでいいんじゃないでしょうか。

今日書きたいことはそれくらいです。


posted by しんざき at 14:28 | Comment(12) | 書籍・漫画関連 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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