2013年10月01日

「地方大会の最強ライバル校」の型落ち問題と、「帯をギュッとね!」は面白いという話


ここに、「野球部がなかった(ないし弱小だった)高校に主人公が入って、野球部が大躍進をする」という少年漫画が一冊落ちていたとする。


「主人公という才能を得た無名校の大躍進」というのは、スポーツ漫画の定番テーマの一つだ。多分、古今東西こういうテーマの漫画はたくさんあると思う。

多くの高校スポーツの例に漏れず、高校野球は地方大会(予選)と全国大会(本戦)に分かれている。地方大会で優勝して甲子園に行けるかどうか、というのが、物語序盤の最大のテーマ、最大のキーポイントになることは論を俟たない。主人公はその才能、ないし努力を経て自分の実力とチーム力を向上させ、当時弱小だった主人公の所属高は徐々に周囲に注目されるようになる。王道の展開である。


さて、ここで「地方大会最大のライバル」が登場する。


少年漫画の構造上、「序盤の強いライバル」は必要不可欠、欠くべからざる存在である。地方大会最大のライバルは、当初のラスボス、最強の敵、大抵の場合は甲子園の常連であり、下馬評では衆目一致で地方大会の優勝本命である。主人公達は、最強ライバル校を打倒する為に、なみなみならぬ努力と少しの幸運を必要とする。

この時、この「地方大会最強のライバル」がどのような位置づけで描かれ、どのように描写されるかは漫画それぞれだ。全国でも名の通った強豪である場合も多いし、全国ではそこまでの立ち位置ではない、という場合もある。


漫画の展開的に、一度は最強ライバルに敗北することもあるが、主人公達は最終的には最強ライバルを打倒し、周囲の驚きと賛辞の中全国に飛び立つ。当初弱小だった主人公達が、努力とチームワークで有力校へと羽化する瞬間である。

そして、主人公たちの高校は、全国大会で「更なる強敵たち」と戦っていくことになるわけなのだが。



ここで問題が発生する。高校スポーツ漫画において舞台が全国に移ってしまうと、レベルアップした主人公高校は大抵、全国大会でも強豪と伍する存在になってしまい、その実力はいつの間にか全国レベルにアップグレードされてしまう。主人公高校は大体の場合全国大会の常連となり、もはや地方大会で苦戦するレベルのチームではなくなってしまう。


これが「地方大会の最強ライバル校の型落ち問題」である。


地方大会/全国大会の2ステージがあるスポーツ漫画において、主人公のチームが全国レベルになってしまうと、「地方大会で苦戦する」描写はやりにくくなってしまうのである。となると、当初は全国レベルだった筈の「地方大会最強のライバル」は、その他大勢の中に埋もれてしまう。これは、地方大会というものがあるスポーツの漫画に、ある程度共通した構造だと思う。

この時、地方大会最強のライバル校の命運には幾つかのパターンがある。


・いつの間にか空気化、ないしフェードアウトする(地方大会自体があまり描写されなくなる)。
・解説ポジション・かませポジションに降格して生き残る
・なんらかの形でてこ入れされ、型落ちしつつも中盤以降の描写に絡み続ける



他にも何パターンかありそうだが、代表的なパターンにはそれ程種類がなさそうだ。最強のライバルが空気化していく展開には、ある種の悲哀を感じることすらある。勿論、作品によっては「序盤最強のライバル」が物語集版まである程度の地位を保っていることもあるが。



さて、ここまでの議論を下敷きにして、ここからが本題なのである。


昔(95年くらいまで)サンデーで連載していた、河合克敏先生の「帯をギュッとね!」、通称「帯ギュ」という柔道漫画がある。「高校スポーツとしての柔道」という描写を確立した名作漫画であり、数ある柔道漫画の中でも本作を一番のお気に入りに据えている人は少なくないと思う。

帯をギュッとね! 文庫全16巻 完結セット (小学館文庫) -
帯をギュッとね! 文庫全16巻 完結セット (小学館文庫) -

帯ギュは何しろ色々な面で大変面白い訳なのだが、私が考える帯ギュのすごいところの一つに、「地方大会最強のライバルを最後までメンテナンスし続けたこと」という点がある。


以下、本作のネタバレがあるため、一応折りたたむ。まだ帯ギュを読んだことがない人は読むべきだと思う。面白いので。


主人公「粉川(こがわ)巧」は、柔道部がそもそも存在しなかった「浜名湖高校」、通称浜高に進学し、柔道部のポイントゲッターとして、序所に類稀な才能を発揮していく。後に、ダンガンロンパばりに「超高校級」と称された巧を中心として、浜高はほんの僅かな期間で強豪高に伍する存在となり、インターハイなどの高校大会で輝かしい成績を残すことになる。

この辺り、帯ギュの基本的な構造は、いわゆる「弱小高に天才主人公が入って大躍進」という、王道スポーツ漫画とほぼ一致している。


さて、浜高、及び巧には、「県下最強のライバル」がいる。三方ヶ原工業高校、通称三工。全国大会の常連である県下最強の強豪校であり、その三工のエースが巧のライバルでもある「藤田恵」である。


高校スポーツ漫画の例に漏れず、物語序盤、三工は「最強のライバル」としての地位を欲しいままにする。「中学全国大会の優勝者」という肩書きを持つ藤田(物語当初はやや天然気味に描写されていたが)を筆頭に、浜高以外のライバル高に負けることは一回たりとも描写されない、まさに常勝軍団の三工。10巻くらいまでの帯ギュが、「三工にどうやって勝つか」ということを一つのテーマにしていたことは当然ともいえる。佐鳴や暁泉など、序盤のその他ライバルが(ストーリーとしてはともかく、対戦相手としては)どんどん空気になっていった中、三工はかなり長い間浜高の強敵であり続けた。


とはいえ、そんな三工も、巧が才能を開花させ始めてからはかなり分が悪くなる。事実、物語全体を見ると、2年目のインターハイから向こう、浜高は三工に一度も負けていない。16巻頃から終盤まで、浜高のライバルは全国の雄「千駄ヶ谷高校」に切り替わり、巧のライバルは事実上千駄ヶ谷高校の鳶嶋雅隆に切り替わる。


しかし、そんな展開の中でも、三工は、というか藤田は、最後まで「型落ち」し切らず、物語最終話ではラスボスに返り咲いてすらいる。最後の最後、数年後の全日本選手権のエピソードで、藤田はかつて敗北した千駄ヶ谷出身の橘を、巧はかつてのチームメイト三溝をそれぞれ下し、両雄が激突するところで物語は終わる。


この「ラスボス復帰」が、決して「型落ちライバルのとってつけたような復活」ではなく、物語を最初から最後まで通して読んでも「これしかない自然な展開」だったことが、帯ギュという漫画の凄いところだった、と思う。


チームとしての三工が「型落ち」を余儀なくされた中、三工のエース藤田だけは、様々な面でメンテナンスされ続けた。


・2年目のインターハイ地区決勝では、「開催県の決勝では上位二校が全国進出」というルールを前面に出し、浜高を全国に進めつつ三工は勝利した。
・2年目の選手権大会では、「勝ち抜き団体戦」という要素を生かし、藤田一人が宮崎・杉・三溝を倒し「勝つには勝ったが藤田は別格」という描写をした。事実、ここでは「巧との決着はつかなかった」という描写であった。
・中量級でありながら地区個人戦に優勝し、全国大会では作中最強クラスのキャラである橘と激闘を繰り広げた。その後、「橘の弱点を浜高に伝える」というアドバイザー的立ち位置でも活躍。



途中若干の解説役ポジションに甘んじた部分こそあったが、随所にツンデレ的なキャラクター描写もされつつ、最後の最後まで「巧の最大のライバル」という描写がされ続けたからこそ、最終話ラスボスが「鳶嶋ではなく藤田」であることに必然性があったのだ、と私は思うわけである。


ぜんぜん関係ないが、帯ギュは「主人公に最初から彼女がいる」という点でも高校スポーツ漫画としては相当の異色漫画だと思うのだが、まあそれは余談。


ということで、今回のエントリーを一言でまとめると「「帯をギュッとね!は大変面白いから読んだことがない人は読むといいですよ!」ということになり、他に言いたいことは特にないことを最後に申し上げておきたい。

今日はこの辺で。
posted by しんざき at 23:13 | Comment(15) | TrackBack(0) | 雑文 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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この記事へのコメント
くるま先輩最強伝説
Posted by at 2013年10月02日 02:43
こんにちは、しんざきさんの分析はいつも楽しんで読ませて頂いております。
私も帯ギュ大好きでした。面白いですよね。杉の立ち位置が好きでした。

この記事のタイトルと前半を見てパッと思いついたのは「粉川と藤田は階級が違うから」だけでした。
最終回は大人の柔道で、単純に無差別級になったから個人戦ができたんだなー、と。
Posted by ひろし at 2013年10月02日 15:36
つ「柔道一直線」
Posted by at 2013年10月02日 17:36
ライバルの延命法といえば
・予選地区が全国有数の激戦区である(=地方大会と全国大会のレベルの差があまりない)
なんていうドカベンパターンもありますね
Posted by at 2013年10月02日 18:31
帯ギュは大好きでした。
小学生から柔道をやっていた身としては、当時のサンデーは、ややマンネリ化した感がある中、毎回楽しみな展開に興奮したものでした。
今、読んでも面白いですよね。
ただ、昨今の現実の柔道界の腐敗ぶりに落胆してしまい、この作品も過去のように気軽に読めなくなってしまったのが残念です。
Posted by at 2013年10月02日 18:40
>帯ギュは「主人公に最初から彼女がいる」という点でも
 
うーん、まあ、そういう状況だけど、本編では確か
告白シーンなかったような気が
Posted by at 2013年10月02日 18:46
作者が、カバー横に書きまくってるよね。
編集がラブラブに持っていくようにしつこく迫るので
絶対にラブラブは書かないってw
だから本編は、親公認の仲だけど、ラブラブ話はスルーしてる
Posted by at 2013年10月02日 18:49
帯ギュは各キャラへのスポットの当て方も素晴らしいですね。
主人公が際立って目立つのは当たり前として、部員の一人一人のキャラが立っている。

構成的な面で言えば、ちょっと異色な柔道作品の、新・コータローまかりとおる! 柔道編も凄い印象に残っています。
序盤のいざこざから発展し1回きりの学内大会で全27巻を書き、丁寧に部員たちの成長を書き、清々しい最後を迎える。
コータローという既にある設定だからこそ出来たとは言えますが、オーソドックスな地方大会、全国大会と言った枠に当てはまらない、超人的な主人公をサポート役とし周りの人物の成長を描く事に特化した、それでいて柔道部分も綿密に描かれた名作だと思います。
YAWARA!などの有名な作品は読んでる方は多いと思いますが、コータローはあまり知らない人も多いんじゃないかと思うので、読んでない方には是非読んで頂きたい。

柔道って日本の代表的な武道でありながら、漫画作品は結構少ないですよね……残念です。
Posted by at 2013年10月03日 06:18
タッチは全国大会をカットするというやり方で、ラスボスは須見工の新田であり続けましたね。
Posted by FORCE at 2013年10月03日 07:53
『帯ぎゅ』は桜子に焦点があたりだしたころから、作者の持ち上げが露骨になりだして、急速につまらなくなった印象。
ヒロインに「勝って!」と叫ばれるたびにパワーアップとかマジできもい。
この恋愛描写の陳腐さに磨きをかけたのが『モンキーターン』だと思う。今の書道マンガもそうだけど、この作者は恋愛描写をさせると、「主人公挙げ、ライバル下げ」描写を露骨にするからつまらん。
Posted by a at 2013年10月03日 11:01
「県立海空高校野球部員山下たろーくん」は最初の地方大会の決勝相手が、甲子園のラストバトルにもなっていて良い話だった。
ジャンプ特有ラストの話の飛ばし方は残念だったが。
Posted by at 2013年10月03日 12:34
桜子かわいかったなw
Posted by at 2013年10月05日 12:18
そー言えば、同じ柔道漫画の巨頭「柔道部物語」も三五には最初から彼女がいましたなw
序盤ライバルの樋田は怪我で引退して、コーチ役としてほぼ全編に渡って登場していましたね。
今でも、怪我で引退型は珍しいかも…
Posted by at 2013年10月05日 12:48
最近のものですと「咲」は今後どうなりますかねー。
Posted by FORCE at 2013年10月08日 13:08
団体戦と個人戦に加え階級制がある複数部門がある競技なら
野球漫画のようなライバルがFOという現象は
防ぎやすいと思います
ボクシング漫画なんかもライバルを1階級ずらして
主人公と共に世界王者なんていう事も可能かな?
スラダンみたいな予選参加校が多い地区は
2〜3チームまで全国出場が可能なんていう規定がある競技もライバルを生かしやすいですね
Posted by at 2015年06月19日 09:37
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